The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

Brave heart

TOP > Hot paper > 前田 真吾

関節炎に伴う骨破壊の治療標的としてのTRPCチャネル

Targeting TRPC channels for control of arthritis-induced bone erosion
著者: Ray S, McCall J L, Tian J B, et al
雑誌: Sci. Adv. 2025; 11:eabm9843.
  • TRPCチャネル
  • 破骨細胞
  • 関節リウマチ

論文サマリー

節炎は、破骨細胞と骨芽細胞の機能の不均衡により骨破壊を引き起こす。著者らは以前、Ca2+選択的チャネルであるOrai1が破骨細胞の成熟に重要と明らかにしている。今回著者らは、小分子化合物ELP-004が一過性受容体電位カノニカル(TRPC)チャネルを選択的に阻害することを示した。ELP-004は、生理的なRANKL誘導によるマウス骨髄・脾臓由来骨髄系細胞(BMSMC)およびヒト末梢血単核細胞(PBMC)由来細胞の破骨細胞分化成熟にはほとんど影響しなかったが、TNFαやLTB4に誘導される破骨細胞成熟は強く抑制した。TRPCチャネルの破骨細胞形成への関与は、TRPC4⁻/⁻マウスおよびTRPC(1–7)⁻/⁻マウス由来のBMSMCで検討され、炎症性サイトカイン誘導の破骨細胞形成に選択的な抑制効果が確認された。さらに、ELP-004は関節リウマチのマウスモデルの骨破壊を抑制した。これらの研究は、TRPCチャネルの炎症性(非生理的)骨破壊における重要な役割を明らかにし、炎症性関節炎の治療薬として現在前臨床試験中であるELP-004の、主要な分子標的に関する知見を提供するものである。

推薦者コメント

この研究では、ELP-004が、骨髄系細胞においてTNFαやLTB4に誘導されるTPRCチャネルのCa2+流入を強く抑制することで、NFATc1の核移行を阻害し、結果としてTRAPの発現や細胞融合、そして基質吸収能、すなわち破骨細胞分化成熟を抑制すること、そしてこれはRANKLを介する生理的な破骨細胞形成過程では観られない現象であることが初めて示された。すなわちこの薬剤は、骨粗鬆症ではなく関節リウマチの様な炎症性関節炎の骨破壊に有効と考えられ、連日長期投与でも明らかな毒性を認めなかったことから、関節リウマチに伴う骨破壊への特効薬として臨床応用が期待される。

鹿児島大学大学院医歯学総合研究科骨関節医学 前田 真吾

(2025年6月6日)

前田 真吾