椎体終板の破骨細胞の老化は感覚神経の侵入と脊椎の疼痛を誘導する
著者: | Pan D, Benkato KG, Han X, et al |
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雑誌: | eLife 2023;12:RP92889. |
- 腰痛
- 老化破骨細胞
- 老化細胞除去薬
論文サマリー
脊椎の痛みは、全年齢層に出現する世界中で最も頻繁な筋骨格系の問題である。その原因となるメカニズムは未だに明らかでなく、臨床での治療は依然として困難である。本研究で著者らは、マウスの腰椎不安定症などの脊椎過敏症モデルや加齢などにおいて、対照群と比べて有意に多くの老化破骨細胞を観察した。老化破骨細胞の増加は、多孔化した椎体終板における感覚神経の侵入やH型血管の増殖と関連があった。これら脊椎疼痛モデルへの老化細胞除去薬ナビトクラックス(ABT263)の投与により、脊椎の過敏性、脊椎の変性、椎体終板の多孔化、感覚神経の侵入、そしてH型血管の増殖が有意に抑制された。また老化破骨細胞では、非老化破骨細胞と比較して、感覚神経の成長因子としてよく知られるNetrin-1とNGFの分泌が有意に増加していた。これらの知見は、投薬による老化破骨細胞の除去が、腰痛の有効な治療法となる可能性を示唆した。
推薦者コメント
慢性腰痛のコントロールにはNSAIDsやオピオイド、ヂュロキセチン等が用いられるが、どれも効果が限定的で、副作用の問題から長期連用に限界がある。本研究は、マウスの腰椎不安定症モデルや加齢マウスにおいて、椎体終板で増える老化破骨細胞がNetrin-1やNGFを分泌することで感覚神経の増加と侵入を促す腰痛発生経路を初めて明らかにした。そして薬物によるその老化破骨細胞の除去が、腰痛の新たな治療オプションとなりうる事を示した点で画期的である。ただし、老化細胞除去薬ナビトクラックス(ABT263)は、老化破骨細胞のみを特異的に標的とするものではない事、そして様々なon-target/off-targetの毒性があり、それが臨床応用を妨げる可能性もある事から、より詳細な検討や、他の老化破骨細胞抑制法の開発も必要である。
鹿児島大学大学院医歯学総合研究科骨関節医学・前田 真吾
(2025年6月6日)