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シングルセルトランスクリプトーム解析により特定された乳がん骨転移における骨破壊の引き金となる老化骨細胞

Single-Cell Transcriptomic Analysis Identifies Senescent Osteocytes That Trigger Bone Destruction in Breast Cancer Metastasis
著者: Kaur J, Adhikari M, Sabol HM, et al.
雑誌: NCancer Res. 2024, 84: 3936–3952.
  • 骨細胞
  • 細胞老化
  • がん骨転移

論文サマリー

がん細胞が骨に定着すると、骨微小環境は劇的なリプログラミングを受けることが知られているが、がん細胞が骨細胞に及ぼす影響については不明な点が多く残されていた。NuTRAPレポーターマウス(Cre依存性に核膜mCherry標識とリボソームGFP標識が可能)と8 kb Dmp1-Creマウスを用い、乳がん細胞を脛骨内に注入後2週間目に、GFP陽性細胞を単離してシングルセルRNA-seq解析を行ったところ、骨芽系列細胞において細胞老化、SASP、炎症反応などに関連するGO termが検出された。乳がん細胞培養上清で骨細胞株を刺激したところ、老化マーカーやSASP関連因子の発現を上昇させた。さらに、ex vivoでのマウス大腿骨やヒト大腿骨頭の器官培養でも同様の結果が観察され、セノリティクスとして知られるダサチニブ+ケルセチン(DQ)を加えると、これらの多くがキャンセルされた。乳がん骨転移マウスモデルの骨では老化マーカー陽性を示す骨細胞および骨芽細胞が検出され、ヒト骨生検においてもp16Ink4a陽性およびSPP1陽性骨細胞が観察され、乳がん細胞が浸潤した骨髄領域の近くに優先的に位置していることが示された。乳がん骨転移マウスへのDQ投与は骨転移の進行には影響を及ぼさなかったが、p16Ink4aやその他老化マーカーの骨細胞における陽性率を低下させ、溶骨性病変の減少、海綿骨量上昇などを誘導した。シングルセル解析で乳がん転移によるp16Ink4a陽性Rankl陽性細胞の増加が検出されたことなどから、骨芽細胞系列の老化細胞で破骨細胞分化に関連する遺伝子発現が変化する可能性が示唆された。乳がん細胞培養上清の刺激により骨細胞株における骨吸収促進因子(Rankl、Il6など)の発現が上昇したが、DQ処理によりこの変化はキャンセルされた。さらに、乳がん細胞によって誘導された老化骨細胞株由来の因子はin vitroでの破骨細胞分化促進能の上昇を示した。以上の結果から、乳がん細胞によって引き起こされた早期細胞老化に伴い、骨細胞は破骨細胞形成促進性SASPを獲得し、破骨細胞系列細胞に作用して破骨細胞形成と骨破壊を促進することが明らかになった。

推薦者コメント

乳がん骨転移が骨細胞における早期細胞老化とSASPを促進することで骨微小環境を再構築する可能性が示された。この老化骨細胞を標的として、転移性乳がんによる骨破壊をセノリティクスにより緩和できる可能性が示唆された。

東京科学大学大学院医歯学総合研究科分子情報伝達学分野・林幹人

(2025年2月21日)