
老化した骨髄マクロファージは、細胞外小胞を介して全身の老化と加齢性機能障害を引き起こす
著者: | Hou J, Chen KX, He C, et al. |
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雑誌: | Nat Aging. 2024;4 (11):1562-1581. |
- 骨髄マクロファージ
- 老化
- 細胞外小胞
論文サマリー
老化細胞の蓄積と増加は、生理的老化や加齢に関連した病態の一因となっている。しかし、どの細胞種が老化環境の影響を最も受けやすく、老化の伝播に関与しうるかは不明であった。
本論文では、生理的に老化した骨髄単球・マクロファージ(BMM)が、細胞外小胞(EV)を介して複数の遠隔組織に老化を伝播し、マウスの加齢に伴う機能障害を誘導することを見出した。同時に、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体α(PPARα)が、老化と加齢に伴う機能障害において下流の影響を制御する老化BMM-EV内のmicro-RNAの標的であること、また、PPARαアゴニストである高脂血症治療薬フェノフィブラートの投与が老化マウスの組織恒常性を効果的に回復させることを明らかにした。さらに、ヒトを対象としたコホート研究から、フェノフィブラートの使用が加齢に関連した慢性疾患のリスクの低下と寿命の延長に関連することが明らかになった。
これらの知見から、BMMが老化を遠隔組織に伝播し、加齢に伴う機能障害を引き起こすことが立証され、フェノフィブラートが健康寿命の延伸に寄与する可能性が示唆された。
推薦者コメント
これまでの研究で、老化のメカニズムとして、細胞外小胞や可溶性分子、老化関連性分泌表現型(SASP)を含む複数の機序が同時に寄与することで、局所および遠隔組織の非老化細胞に影響を与え、老化が全身性に伝播する可能性が報告されてきたものの、その全貌は明らかとされていなかった。本論文では、老化BBM由来の細胞外小胞が老化促進作用を有すること、また、高脂血症治療薬であるフェノフィブラートが老化を抑制する可能性を見出している。現在、老化やこれに伴う機能障害を部分的に緩和する薬剤として、mTOR経路を標的としたラパマイシンなどが示されているものの、副作用などが問題になっている。本成果は、より安全な老化治療薬開発にも繋がる新知見であり、今後のさらなる研究展開を期待したい。
北海道大学大学院歯学研究院硬組織微細構造学教室・長谷川 智香
(2025年2月21日)