Nrf2活性化剤が鉄-オルニチン制御系を介して破骨細胞分化を抑制する
著者: | Dong Y, Kang H, Peng R, et al |
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雑誌: | Cell Metabolism 36, 1679-1695, 2024 |
- 破骨細胞
- Nrf2
- Bitopertin
論文サマリー
本論文では、Glycine transporter1(Glyt1)阻害剤として知られるBitopertinが、卵巣摘出マウスにおける海綿骨量の減少および破骨細胞数の増加を有意に改善する効果を示すことを明らかにした。また、Bitopertinには破骨細胞分化を阻害する作用があることも確認されたが、予想に反して、その作用機序はグリシン代謝系とは無関係であることがわかった。Keap1はユビキチンE3リガーゼと複合体を形成し、直接結合する転写因子Nrf2をタンパク質分解により抑制するが、酸化ストレスがKeap1によって感知されると、Nrf2が解離・蓄積し、レドックス制御にかかわる遺伝子発現を誘導することが知られている。今回、筆者らは、BitopertinがKeap1に結合し、Nrf2を活性化する作用をもつことを発見した。さらに、活性化したNrf2が鉄の細胞外排出を担うフェロポーチン(Slc40a1)の遺伝子発現を誘導し、オルニチン代謝系を低下させることで破骨細胞分化の抑制に寄与することを示した。
推薦者コメント
1995年、赤血球前駆細胞においてグロビン遺伝子を制御する転写因子NF-E2(p45)の関連タンパク質としてNrf2が同定され、続く1997年および1999年には、Nrf2が抗酸化タンパク質や異物代謝酵素の遺伝子発現を制御するマスターレギュレーターとして機能すること、また酸化ストレスや親電子性物質に応答するセンサー分子Keap1がNrf2を制御することが明らかにされた。これらのNrf2/Keap1制御系に関する研究は、山本雅之博士(東北大学)や伊東健博士(弘前大学)らによる功績である。しかし、近年のNrf2/Keap1に関する論文では、本論文も含め、初出の論文が適切にクレジットされてない傾向が見受けられ、非常に残念である。本論文はNrf2活性化剤が骨粗鬆症の新規治療薬となる可能性を示唆しているが、Nrf2の活性化はがんの増殖や抗がん剤耐性の増加、また糖・脂質代謝系の異常や抗炎症作用による免疫抑制効果のリスクも示唆されており、今後は長期利用に伴う治療効果および副作用に関する続報が求められる。
(同志社大学大学院生命医科学研究科医生命システム専攻・畑野晃徳、西川恵三)
(2024年11月21日)