論文サマリー

SOX8は、軟骨発生のマスター転写因子であるSOX9とともにSOXEグループに属する。ゲノムワイド関連解析（GWAS）により、SOX8の身長への関与が示唆されていたが、軟骨細胞における役割は不明であった。成長板軟骨において、Sox8は静止軟骨細胞と初期円柱状増殖軟骨細胞でSox9と同程度に発現し、Sox9の発現がピークに達する後期円柱状増殖軟骨細胞と前肥大軟骨細胞で消失した。Prx1Cre;Sox9flox/+マウスと比較して、Prx1Cre;Sox9flox/+;Sox8flox/floxマウスでは生後の長管骨の短縮化が進行し、増殖率の低下とPthlhの発現上昇を伴う静止軟骨細胞層の延長を認めた。以上の結果は、SOX8がSOX9と共に静止軟骨細胞から円柱状増殖軟骨細胞への移行を促進することを示唆していた。成長板軟骨細胞においてSox8またはSox9を過剰発現させたマウスの表現型によってもこの役割は支持されたが、SOX8はSOX9よりも蛋白安定性に優れ、強い活性を有することが示唆された。以上より、成長板軟骨細胞におけるSOX8とSOX9の共通の役割とともに、SOX8が軟骨再生や修復の治療標的となる可能性が示された。

推薦者コメント

本研究は、複合変異マウスの表現型を丹念に解析することで、成長板軟骨細胞の分化においてSOX8とSOX9が共通の役割を有し、生後の骨成長に関わることを示した論文である。GWASから示唆されるSOX8の機能とその機序を示している点で評価できる。今後は、SOX8のゲノム標的の探索とSOX9に関するデータとの比較解析を通じて、成長板軟骨細胞におけるSOX8のゲノムワイドな作動様式や下流遺伝子に関する知見が集積されることを期待したい。
（大阪大学大学院歯学研究科組織発生生物学講座・神前 圭吾、大庭 伸介）