日本骨代謝学会

The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

入会・変更手続
The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

Event/イベント情報

Book/関連書籍のご案内

member/会員ページ

Brave heart

TOP > Hot paper > 前田 真吾

BMPシグナルはprotein kinase Aを抑制することで軟骨細胞の特性を維持し小耳症の発症を防止する

BMP signaling maintains auricular chondrocyte identity and prevents microtia development by inhibiting protein kinase A
著者:Yang R, Chu H, Yue H, et al
雑誌:eLife 12, RP91883 (2024)
  • BMPシグナル
  • PKA
  • 軟骨細胞分化
  • 小耳症

論文サマリー

弾性軟骨は音を中耳と内耳に誘導する外耳を構築する主要コンポーネントである。外耳発達の欠損は先天性小耳症を来たし、患者の聴力と容姿に影響する。いくつかの遺伝子が小耳症形成に関与することが報告されているが、未だにこの疾患の病因は完全には解明されていない。この論文で著者らは、成獣マウスの耳介軟骨がPrrx1でラベルされることをトランスジェニックマウスで示した。興味深いことに、BMP-Smad1/5/9シグナルが耳介の特に遠位の軟骨細胞で活性化しており、この部位では軟骨細胞再生能が低下していた。Prrx1-Creで耳介軟骨細胞特異的にBmpr1a (BMP I型レセプター)をノックアウトすると、軟骨細胞が萎縮し、耳介遠位部分で耳症形表現型に発展した。トランスクリプトーム解析から、Bmpr1aの欠損により軟骨細胞から骨芽細胞への形質転換が起こっていることと、Adcy5/8 (cAMP産生酵素)の発現増加によると考えられるprotein kinase A (PKA)の活性化増強を伴っていることが示された。PKA抑制剤を投与すると耳介軟骨細胞の骨芽細胞変換と小耳症形成がレスキューされた。さらに、ヒトの小耳症サンプルのシングルセルRNAシークエンス解析から、PKA経路関連および軟骨細胞から骨芽細胞への形質転換に関連する遺伝子群が濃縮されていた。これらの結果から、BMPシグナルは耳介軟骨細胞で活性化されており、骨芽細胞化を抑制することで軟骨としての特性を維持するのに重要であることが示唆された。

推薦者コメント

BMPシグナルは、軟骨細胞分化の誘導と分化成熟に促進的にはたらくが、マウス成獣の軟骨の維持という観点では、その役割は不明であった。この論文において、Prrx1-CreERT; Bmp1a cKOの成獣マウスでは、誘導後60日で耳介遠位優位に小耳症になるのが興味深い。すなわち耳介の発達だけでなく維持においても絶えずBMPシグナルが活性化していないと、速やかに軟骨細胞が萎縮して骨芽細胞化してしまうのである。そしてこの変化がPKA抑制剤でレスキューされたということは、小児や成人の一旦形成された小耳症でもこの抑制剤で外科的形成術によらず治療可能であることを示唆する。ただし、このcKO軟骨細胞が骨芽細胞化した後に骨を造るというデータはないので、骨芽細胞へのトランスフォーメーションという表現が妥当かは疑問が残る。おそらくBMPシグナルを遮断しているので、それ以降の骨芽細胞成熟も起きないのだろうと想像はできる。またBMPシグナルがAdcy5/8 (cAMP産生酵素)発現を抑制(PKA活性の抑制維持)するのは耳介軟骨特異的な現象なのか他の弾性軟骨(鼻など)にもありうるのか言及がなく、さらなる解析が必要だろう。
(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科骨関節医学講座・前田 真吾)