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軟骨細胞調節因子および変形性関節症の治療標的としての Nav1.7

Nav1.7 as a chondrocyte regulator and therapeutic target for osteoarthritis
著者:Fu W, Vasylyev D, et al.
雑誌:Nature. 2024; 625: 557-565
  • 変形性関節症
  • 電位依存性ナトリウムチャネル
  • 疼痛制御

論文サマリー

変形性関節症(OA)では関節軟骨の変性に伴う痛みや可動域の減少などの症状があり、世界中で何億人もの罹患者が存在するが、OAの進行を止める効果的な治療法は確立されていない。筆者らはOAの一番の問題である痛みに着目し、疼痛と関連の深い電位依存性ナトリウムチャネル(VGSCs)について調べた。軟骨細胞で発現するVGSCsは6つあったが、OA軟骨で有意に発現上昇が観察されたのはNav1.7であった。筆者らは、遺伝子改変マウスと2つのOAモデル(外科的誘発OAモデルおよび化学誘発OA)を用いて、OAの進行と痛みにおいてと軟骨細胞のどちらのNav1.7発現が重要なのかを調べた。すると軟骨細胞由来Nav1.7は、OAの進行とそれに伴う疼痛行動の両方で二重の役割を果たしていることがわかった。一方、後根神経節ニューロンに発現するNav1.7は、疼痛のみに寄与していた。選択的Nav1.7 阻害剤の局所投与又は全身投与のどちらも、OA の進行を遅らせ、疼痛行動を軽減した。また、非選択的ナトリウムチャネル阻害剤カルバマゼピンによる全身治療もOA症状を改善した。

推薦者コメント

OA患者の主訴の多くは疼痛であることからも、疼痛制御はOA治療において重要である。軟骨細胞に発現するVGSCsであるNav1.7はOAの疼痛のみならず進行にも関与する興味深い知見が得られた。OA治療において、チャネルという新たな標的が見出されたことはオピオイドによらない疼痛コントロールの可能性を示すものである。臨床的に使用されている Na チャネル阻害剤カルバマゼピンがOA症状を改善したことは治療ターゲットとして有用であることを示唆する。
(東京大学医学部附属病院 骨・軟骨再生医療講座・寺島 明日香)