グリセロール-3-リン酸とホスホエタノールアミンの蓄積を引き起こす恒常性スイッチが、脂質代謝経路を再編成することで老化を引き起こす
A homoeostatic switch causing glycerol-3-phosphate and phosphoethanolamine accumulation triggers senescence by rewiring lipid metabolism
著者: | Tighanimine K, Nabuco Leva Ferreira Freitas JA, Nemazanyy I, et al |
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雑誌: | Nat Metab. 2024 Feb;6(2):323-342. doi: 10.1038/s42255-023-00972-y. |
- 老化
- 恒常性スイッチ
論文サマリー
細胞の老化は非致死的な細胞ストレスに応答して細胞周期が停止した状態であり、細胞代謝は解糖有意にシフトし、脂肪滴が蓄積することが知られている。この論文では、異なるタイプの老化を示すヒト線維芽細胞を用いて、動的トランスクリプトームおよびメタボロームの多層解析を実施し、老化ストレスに共通する代謝経路と、それに伴う遺伝子発現メカニズムを示している。特に、老化で蓄積するリセロール-3-リン酸(G3P)とホスホエタノールアミン(pEtN)に着目し、老化細胞では、p53によりPcyt2が翻訳語抑制されることで、リン脂質の合成が抑制されるとともに、GK活性が上昇することでG3Pが増加し、トリグリセリドとしてエネルギー貯蔵量が増え、老化遺伝子を発現誘導することを示している。また、細胞老化はG3Pホスファターゼとエタノールアミン-リン酸ホスホ-リアーゼにより抑制されることから、リン脂質合成とトリグリセリド蓄積をスイッチングすることで、老化が引き起こされると結論づけている。
推薦者コメント
本研究では、ドキシサイクリンなど様々な方法で細胞老化を誘導していたが、実際の高齢者から単離した線維芽細胞でも細胞代謝の変化やG3PとpEtNの蓄積などの同様の変化がみられるのか疑問に思った。また、糖代謝など他の経路でも変化があるのではないかと思った。今回のようなトランスクリプトームとメタボロミクスなどを組み合わせた多層解析により、今後、様々な疾患でのエネルギー代謝による制御機構の解明が期待されるのではないかと思った。
(岡山理科大学 獣医学部 獣医学科 実験動物学講座・櫛笥 悠人 / 日本獣医生命科学大学獣医学部 獣医学科 比較細胞生命学研究室・伊豆 弥生)