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セリン合成経路はNFATc1遺伝子のエピジェネティック制御を介して破骨細胞分化を促進する

The serine synthesis pathway drives osteoclast differentiation through epigenetic regulation of NFATc1 expression
著者:Stegen S, Moermans K, Stockmans I, et al
雑誌:Nature Metabolism 6:141-152 (2024)
  • 破骨細胞
  • セリン合成経路(SSP)
  • NFATc1

論文サマリー

破骨細胞分化制御と細胞内代謝との関係性は精力的に研究が行われているが、本論文では、セリン合成経路(SSP)が破骨細胞分化に重要な役割をもつことを新たに明らかにした。破骨細胞分化の中期において、c-Mycを介して発現誘導されるホスホグリセリン酸デヒドロゲナーゼ(PHGDH)によって、グルコース→3-ホスホグリセリン酸(3PG) →セリンの代謝フラックスが亢進することが明らかとなった。3PGからのde novo SSPには、PHGDH、ホスホセリンアミノトランスフェラーゼ(PSAT1)、ホスホセリンホスファターゼ(PSPH)の3つの酵素が関わるが、PSAT1の酵素反応では、同時にグルタミン酸がα-ケトグルタル酸(αKG)へ変換される。実際、破骨細胞内においては、およそ半分のαKGがde novo SSPを介して産生されることが明らかとなった。αKGは脱メチル化酵素の補因子として機能することが知られている。本論文では、de novo SSPを介したαKG 産生が、ヒストンH3の9番目と27番目のリシン残基(H3K9, H3K27)の脱メチル化にかかわり、なかでも、H3K27の脱メチル化酵素JMJD3を介したNFATc1遺伝子のエピジェネティック制御によって破骨細胞分化が正に制御されることを明らかにした。

推薦者コメント

マクロファージの分化制御機構に関するこれまでの研究によると、アナプレロティック反応としてグルタミノリシスを介したαKG産生やJMJD3によるエピジェネティック制御の重要性が明らかにされている。今回の論文によって、破骨細胞分化においても同様に、グルタミン/αKG/JMJD3制御系の重要性が明らかとなった。しかし、αKG 産生に関しては互いに機序が異なり、マクロファージではグルタミン酸デヒドロゲナーゼがグルタミン酸をαKGに変換するのに対して、破骨細胞ではPSAT1がグルタミン酸からαKGを産生する。今後、破骨細胞特有の代謝様式がさらに詳細に解明されることで、マクロファージとの細胞形質の違いを生み出す分子基盤の実体解明につながることが期待される。
(同志社大学大学院生命医科学研究科医生命システム専攻・畑野 晃徳、西川 恵三)