骨細胞のミトコンドリアはSTING依存性の免疫応答により腫瘍の発達を抑制する
著者: | Zhou H, Zhang W, Li H, et al. |
---|---|
雑誌: | Sci Adv. 2024; 10: eadi4298 |
- 骨細胞
- 骨転移
- ミトコンドリア輸送
論文サマリー
骨組織は腫瘍転移の最も頻度の高い部位の一つである。骨転移の最終段階において、癌細胞はコロニーを形成し、骨微小環境において最も豊富な細胞である骨細胞によって維持される骨基質を破壊する。しかし、骨転移における骨細胞の役割は未だ明らかではない。研究者らは、骨細胞が転移癌細胞にミトコンドリアを輸送し、cGAS/STINGを介した抗腫瘍免疫を引き起こすことを見出した。ミトコンドリアRho GTPase 1(Rhot1)またはミトコンドリアmitofusin 2(Mfn2)を骨細胞特異的にノックアウトしてミトコンドリア輸送を阻害すると、腫瘍の免疫原性が損なわれ、転移癌の骨基質への進行が促進された。これらの知見は、骨細胞が癌細胞にミトコンドリアを輸送することにより骨転移に対抗する保護的役割を明らかにするものであり、骨転移を予防するための新たな治療戦略につながる可能性がある。
推薦者コメント
骨細胞の骨転移における役割に着目した先駆的な研究である。同グループは以前に、骨細胞が樹状突起ネットワークを介して隣接する骨細胞にミトコンドリアを輸送し、細胞障害時にエネルギー代謝をサポートすることを報告しており、Hot Paperでも取り上げた。本研究により、骨細胞が隣接する骨細胞のみならず、転移癌細胞にもミトコンドリアを輸送し、これが骨転移に対する防波堤として機能していることが明らかとなった。一方で、癌細胞から癌細胞へのミトコンドリア輸送は、化学療法などによって障害された癌細胞を回復させることも報告されている。今後、新たな治療標的となるためには、ミトコンドリア転送の機序の解明や、骨細胞特異的にミトコンドリア輸送を増強する方法の確立が課題になると考えられる。
(東海大学医学部内科学系腎内分泌代謝内科学・駒場 大峰)
(2024年3月28日)