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Gpcpd1-GPC代謝経路は加齢により障害され、糖代謝異常の一因となる

Gpcpd1–GPC metabolic pathway is dysfunctional in aging and its deficiency severely perturbs glucose metabolism
著者:Cikes D, Leutner M, Cronin SJF, et al.
雑誌:Nat Aging. 2024; 4: 80-94
  • Gpcpd1-GPC代謝経路
  • 筋肉
  • 糖代謝

論文サマリー

骨格筋は全身の代謝調節において中心的な役割を果たす。この機能は加齢に伴い障害され、様々な慢性疾患を引き起こすが、そのメカニズムに関する知見は限られている。グリセロホスホコリンホスホジエステラーゼ1(Gpcpd1)は筋組織に豊富に存在する酵素で、グリセロホスホコリン(GPC)を加水分解することが知られているが、その生理学的機能は未だ明らかではない。研究者らは、老化マウスの筋肉ではGpcpd1-GPC代謝経路が障害されていることを見出し、さらに筋肉特異的にGpcpd1を不活性化すると、糖代謝が著しく障害されることを明らかにした。また、欧米型の食事では、この状態がさらに悪化することを認めた。その機序として、筋肉におけるGpcpd1欠損によって若年マウスでもGPCが蓄積し、老化に類似する遺伝子発現変化とインスリンシグナル伝達障害を引き起こすことを示した。さらに研究者らは、高齢者や2型糖尿病患者では、筋組織にGPCが蓄積しており、年齢と強い正の相関があることを確認した。以上の結果は、筋肉におけるGpcpd1-GPC代謝経路が糖代謝調節に重要な役割を担っていることを明らかにし、さらにこの経路が加齢に伴い障害され、耐糖能異常の一因となっている可能性を示すものである。

推薦者コメント

筋肉は、生体に摂取されたグルコースの大部分を代謝する人体最大の臓器である。老化に伴い、このような糖代謝における筋肉の機能は低下することが知られているが、その機序の詳細は明らかでなかった。Gpcpd1は筋肉の分化を制御する因子と想定されてきたが、本研究によりこの酵素が加齢に伴う耐糖能異常に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。しかしながら、Gpcpd1の機能不全によって生ずるGPC蓄積がどのような機序で筋肉におけるグルコース代謝を障害するのか、あるいはGpcpd1-GPC代謝経路が糖尿病の新たな治療標的となるのか、現時点では明らかではない。今後さらなる研究を期待したい。
(東海大学医学部内科学系腎内分泌代謝内科学・駒場 大峰)