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APS-1およびセリアック病患者における自己免疫性エナメル質形成不全症

Autoimmune amelogenesis imperfecta in patients with APS-1 and coeliac disease
著者:Yael Gruper, Anette S. B. Wolff, et al
雑誌:Nature. 2023; 624:653-662
  • エナメル芽細胞
  • エナメル質形成
  • 自己免疫

論文サマリー

エナメル芽細胞は、ハイドロキシアパタイト結晶の足場として機能する多様なマトリックスタンパク質を産生することで、エナメル質形成に必須の役割を担っている。そのためエナメル芽細胞由来タンパク質の機能喪失は、エナメル質形成不全症と呼ばれる稀少疾患を引き起こす。一方、AIRE遺伝子欠損が原因の自己免疫性多内分泌腺症候群1型(APS-1)でもエナメル質形成不全は認められる。AIREは胸腺で末梢組織抗原の発現を制御する遺伝子であり、すなわち自己反応性T細胞が胸腺内で除去される機構(中枢性免疫寛容)に重要である。著者らはまず、胸腺で多数のエナメル芽細胞特異的タンパク質の発現がAIREによって誘導されていることを明らかにした。さらに、APS-1患者ではエナメル芽細胞特異的タンパク質に対する中枢性免疫寛容が破綻するため、その結果それらのマトリックス因子に対する自己抗体(ほとんどがIgA)が産生されることでエナメル質形成が阻害されることを示した。またセリアック病の20-50%の小児患者でもエナメル質形成不全を呈する。セリアック病の主な自己抗体である抗トランスグルタミナーゼ2抗体がエナメル芽細胞にも反応すること、またk-カゼインもエナメル芽細胞で発現しており、牛乳のカゼインに対する抗体が交差反応を示すことで、エナメル質形成障害を引き起こしうることを明らかにした。以上より、両疾患はIgA依存性自己免疫疾患であり、総称して自己免疫性エナメル質形成不全症と呼んでいる。

推薦者コメント

複数のマウスモデルでエナメル質形成不全を評価しているものの、その評価方法やデータセットがやや未熟で不親切にも思えるが、いずれにしろ自己抗体(それもIgA)によりエナメル質形成が障害されるという機序は新規性が高く非常に興味深い。
(東京大学大学院医学系研究科骨免疫学寄付講座・岡本 一男)