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TOP > Hot paper > 前田 真吾

骨格筋由来の細胞外小胞は解糖系酵素を輸送して筋-骨クロストークを仲介する

Skeletal muscle-derived extracellular vesicles transport glycolytic enzymes to mediate muscle-to-bone crosstalk
著者:Ma S, Xing, X, Huang H, et al.
雑誌:Cell Metab. 2023; 35: 2028-2043.e7
  • 複合細胞外小胞
  • 解糖系
  • 骨髄間葉系幹
  • 間質細胞

論文サマリー

 骨形成を統括する骨格筋由来の合図(シグナル)を明らかにすることは、骨変性疾患の治療法開発の為に筋・骨クロストークを理解する上で必要である。この論文で著者らは、骨格筋が複合細胞外小胞(multiple extracellular vesicles: Mu-EVs)を分泌する事を発見した。これらMu-EVsは血流に乗って骨に到達し、そこで骨髄間葉系幹/間質細胞(BMSCs)に貪食された。Mu-EVsはマウスにおいてBMSCsの骨芽細胞分化を促進し、廃用性骨粗鬆症を予防した。Mu-EVsの量と生物活性は骨格筋の機能と密に連動していた。プロテオミクス解析によってMu-EVs中に含有される多くの蛋白が同定されたが、その中に骨代謝を制御しうるもの(特に解糖系制御酵素)が含まれていた。さらなる解析から、Mu-EVsがlactate dehydrogenase A (LDHA)をBMSCsの細胞内に送り届けることによって、解糖系反応を促進したことがわかった。これら結果からまとめると、Mu-EVsはBMSCの代謝制御による骨形成促進に重要な役割を演じており、このことは骨格筋由来Mu-EVsが廃用性骨粗鬆症の有望な治療アプローチとなりうる事を示唆した。

推薦者コメント

 骨格筋は運動器の重要な構成要素としてだけでなく、内分泌組織としても既に広く認識されており、いわゆるマイオカイン(例:IGF-1, IGF-2, マイオスタチン)を介して骨代謝制御に関わっている。しかし、マイオカインの中で骨形成を促進するものは少数に限られており、骨格筋が骨形成と強力に連関しているという現象論を十分説明できなかった。この論文では、サイトカインではなく骨格筋由来の分泌小胞に着目したところが斬新であり、これが運動や廃用で量が増減するのも面白いが、それが血流に乗って遠隔の骨に到達してBMSCsの骨芽細胞分化を促進し、しかもその小胞の積荷の中で解糖系を促進する酵素が重要というところがポイントである。骨形成にはエネルギーが要るということを再認識させられ、新たな骨形成促進薬開発のヒントになっている点でも興味深い。
(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科骨関節医学講座・前田 真吾)