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MGP遺伝子の特異的ヘテロ変異は小胞体ストレスを誘導し脊椎骨端異形成症の原因となる

Specific heterozygous variants in MGP lead to endoplasmic reticulum stress and cause spondyloepiphyseal dysplasia
著者:Gourgas O, Lemire G, Eaton A L, et al.
雑誌:Nature Commun. 2023; 14: 7054
  • Matrix Gla Protein
  • Keutel症候群
  • 脊椎骨端異形成症
  • 小胞体ストレス

論文サマリー

 Matrix Gla Protein (MGP)はビタミンK依存的に翻訳後修飾を受ける蛋白で、血管や軟骨組織で高発現し、細胞外基質石灰化の強力な阻害因子である。MGP遺伝子のホモの機能欠失型変異は常染色体潜性遺伝のKeutel症候群の原因であり、様々な軟骨組織や骨、そして血管に広く出現する石灰化亢進が特徴である。この論文で著者らは、2種類のMGP遺伝子ヘテロ変異(MGP蛋白の19番アミノ酸システインがフェニルアラニンまたはチロシンに置換)を有する独立した二家系の4症例を報告した。これら症例では、低身長、短胴体、多数の扁平椎体、顔面中部後退、進行性の骨端異常、そして短手指骨を認めた。MGP遺伝子有害変異(C19F)をヘテロでノックインしたマウスは、上記症例のほとんどの骨格異常を再現した。さらなる解析からこの骨格異常は、小胞体(ER)ストレスにより誘導された成長板の軟骨細胞のアポトーシスによることが示唆された。まとめると、MGP遺伝子のC19Fヘテロ変異が常染色体顕性遺伝の脊椎骨端異形成症の原因であり、Keutel症候群とは臨床的にも分子メカニズム的にも異なる疾患であることが分かった。

推薦者コメント

 Keutel症候群と本論文のMGP C19F変異症例は、共通して低身長、短手指骨、顔面中部後退を認めるが、共通項はそれだけで、前者は肺動脈狭窄、動脈石灰化、難聴、発達遅延を呈する一方で、後者では扁平脊椎や進行性の骨端異形成が特異的な表現型である。したがって両者は明確に区別されるとして、MGP C19F変異症例を”Spondyloepiphyseal dysplasia (SED), MGP type”と著者らは命名した。C19F変異はMGPのシグナルペプチドに異常を来たし、MGP蛋白のプロセッシング不全によりERに蓄積し、結果としてMGPが細胞外に分泌されない。このことが肥大軟骨細胞のアポトーシスをきたすが、肥大軟骨細胞の一部は骨芽細胞にtrans-differentiationするので、続く骨形成も低下するのだろうとしている。Keutel症候群はMGPのloss-of-function変異だが、このC19F変異はdominant negativeかつgain-of-function効果をもたらすので、顕性遺伝形式を取るのだろうとも著者らは推察しており、興味深い。
(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科骨関節医学講座・前田 真吾)