がん転移を促進する脊椎骨格幹細胞
著者: | Sun J, Hu L, Bok S, et al. |
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雑誌: | Nature. 2023; 621: 602-609. |
- 脊椎骨膜幹細胞
論文サマリー
椎骨は固形腫瘍の転移率が長骨より高く、長骨とは異なる特徴を持っていると考えられるが、この原因は不明である。筆者らは脊椎骨格幹細胞(vSSC)と長骨骨格幹細胞の遺伝子発現を比較し、vSSCに特徴的な遺伝子としてZIC1とPAX1を同定した。このvSSCは骨芽細胞、脂肪細胞、軟骨細胞への分化能をもち、in vivoで長期にわたる自己複製能維持など幹細胞特有の性質をもっていることが示された。vSSC特異的に骨芽細胞分化に重要な因子を欠損したマウスでは骨量が低下し、脊椎の形成異常が観察された。さらに、筆者らはvSSCで発現する分泌タンパク質MFGE8に注目した。がん細胞培養系においてMFGE8を添加したところ遊走能が上昇し、Mfge8欠損マウスでは脊椎への転移率の低下および腫瘍増大の抑制が見られた。ヒト臨床検体にもこのvSSCが観察でき、Mfge8発現を抑制したヒトvSSC由来骨オルガノイドを免疫不全マウスで形成したモデルにおいて、乳がん細胞の転移が抑制された。
推薦者コメント
この報告により、マウス椎骨の初期形成およびその後の維持において、これまでに同定された長骨骨格幹細胞とは異なる幹細胞集団、vSSCが機能していることが示され、そのマーカーも同定された。また、このvSSCに相当する細胞がヒトにも存在しており、幹細胞の性質を持ち合わせることも示されている。今まで不明であった乳がんの脊椎転移指向性に、このvSSCが分泌するMFGE8が関与していたという結果は、今後のがん転移抑制治療戦略に有益な情報であろう。
(東京大学医学部附属病院 骨・軟骨再生医療講座・寺島 明日香)