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WHIM症候群の原因となるCXCR4変異は骨粗鬆症を促進する

WHIM Syndrome-linked CXCR4 mutations drive osteoporosis
著者:Anginot A, Nguyen J, Abou Nader Z, et al.
雑誌:Nat Commun. 2022; 14: 2058
  • CXCR4
  • WHIM症候群
  • 骨粗鬆症

論文サマリー

 WHIM症候群は,CXCR4の機能獲得型変異によって引き起こされる稀な免疫不全症である。本研究で著者らは,WHIM症候群の患者の25%で骨密度が低下しており,WHIM症候群のマウスモデルでも骨前駆細胞の減少と破骨細胞の増加とともに骨量が低下していることを明らかとした。その機序として,CXCR4の脱感作が障害されることによりCXCR4シグナルが増強し,骨髄中に存在する間葉系幹細胞の骨芽細胞系への分化成熟が阻害されるとともに,破骨細胞系への分化成熟が亢進することが示された。WHIM患者の間葉系幹細胞の初代培養では,骨芽細胞系の分化成熟が障害されていた。変異マウスから分離した間葉系幹細胞にin vitroでCXCR4阻害薬AMD3100を投与すると骨芽細胞系への分化成熟が正常化し,in vivoでは変異マウスで見られる骨芽細胞の低下が正常化した。これらの結果より,間葉系幹細胞の骨芽細胞系への分化には,CXCR4の適切な脱感作が必要であることが示された。本研究は,間葉系幹細胞の骨芽細胞系への分化成熟,および骨形成と骨吸収のバランス制御におけるCXCR4シグナルの役割と機序を解明するものである。

推薦者コメント

 WHIM症候群は,疣贅(warts),低ガンマグロブリン血症(hypogammaglobulinemia),感染症(infections),骨髄性白血球貯留(myelokathexis)を特徴とする症候群である。CXCR4の機能獲得型変異により,造血幹細胞のリンパ球への分化が障害され,血液中の白血球数が減少する。本研究により,この変異が間葉系幹細胞の骨芽細胞系への分化成熟が損なわれることが示された。骨髄という共通の場における骨代謝と免疫系の深い関わりが再認識されるとともに,WHIM症候群という病態のみならず,骨代謝におけるCXCR4の生理的役割にも関心が向けられる結果である。CXCR4拮抗薬は自家末梢血幹細胞移植の際に造血幹細胞を末梢血中に動員するために使用されるが,WHIM症候群にも一定の効果があったことが近年報告されている。CXCR4が骨粗鬆症を含む他の代謝性骨疾患の治療標的となるか,今後さらなる研究を期待したい。(東海大学医学部内科学系腎内分泌代謝内科学・駒場 大峰)