SIRT2は、細胞外小胞を介した肝臓-骨コミュニケーションを制御する
著者: | Longshuai Lin, Zengya Guo, et al |
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雑誌: | Nat Metab. 2023; 5:821-841 |
- 肝臓
- 細胞外小胞
- 破骨細胞
論文サマリー
慢性肝臓病に伴う骨病変は肝性骨異栄養症(hepatic osteodystrophy)と呼ばれ、慢性肝臓病患者の75%が骨粗鬆症を来すことからも、肝臓-骨連関の分子実態の究明は重要なテーマである。本論文では、加齢に伴い肝臓におけるNAD+依存性脱アセチル化酵素Sirtuin2(SIRT2)の発現が上昇することに着目し、肝細胞特異的SIRT2欠損マウスでは加齢による骨量減少が抑えられること、それが破骨細胞抑制に起因していることを見出した。興味深いことに、肝細胞特異的SIRT2欠損マウスの血中に含まれる細胞外小胞(extracellular vesicle:EV)が破骨細胞分化を阻害する活性を有していた。肝臓のRNA-seq解析や血漿の質量分析解析を通じて、SIRT2欠損により肝細胞及び肝細胞由来EVではLRG1の量が増加することを認めた。肝細胞由来EVは血中を循環して破骨細胞に取り込まれ、破骨細胞内でLRG1がNF-κB p65に結合し核移行を妨げることで、破骨細胞分化が抑えられる、と結論づけている。なおSIRT2はヒストンH4K16の脱アセチル化を介してLRG1発現を制御している。肝細胞特異的SIRT2欠損マウス並びにSIRT2阻害剤AGK2を投与したマウスでは、OVXによる骨量減少も抑えられた。さらにはヒトでも高齢では肝臓でのSIRT2発現が高いこと、骨粗鬆症患者では血中EVのLRG1量が低く、LRG1量はBMDと正に相関し、β-CTXと逆相関することを明らかにした。
推薦者コメント
肝細胞由来のEVが、果たして広範囲に亘って骨組織内の破骨細胞に効率良く取り込まれるのか気になるところであるが、EVが破骨細胞指向性の高い特性を有するのであれば面白い。そもそもLRG1は分泌糖タンパク質だが、細胞質内で機能するという点も興味深い。またSIRT2欠損により若齢マウスでも肝臓と細胞外小胞のLRG1量が増えるものの、なぜか骨量は野生型と差がなく、その原因も不明なままである。(東京大学大学院医学系研究科骨免疫学寄付講座・岡本 一男)