論文サマリー

　生体内において、血管およびリンパ管は幅広いネットワークを形成し細胞やタンパク質輸送を行っている。ただし、これまでに骨内におけるリンパ管の存在は報告されていなかった。筆者たちの組織透明化技術とライトシートイメージングにより、マウスとヒトで皮質骨及び骨髄内のリンパ管が観察された。さらに、遺伝毒性ストレス時に骨内のリンパ管は増殖することが見出された。骨内リンパ管新生は、VEGF-C/VEGFR-3シグナル伝達とIL-6によって促進していた。また、放射線照射後の骨髄中で造血幹細胞の維持因子として知られるCXCL12の分泌が増加していた。リンパ管由来のCXCL12を欠損させると放射線照射後の造血系再構築能は低下した。放射線照射後の骨髄でCXCL12誘導性にMyh11⁺ CXCR4⁺ペリサイトが骨芽細胞に分化することもわかった。さらに、放射線照射によるリンパ管増加とそれに伴う骨形成の亢進能は老化によって低下することも示された。

推薦者コメント

　筆者たちの高解像度の骨格組織3Dイメージングによって、骨内にリンパ管が存在しており、ストレス後の造血系や骨芽細胞の再構築に役割を果たしていることが明らかにされた。近年リンパ管内皮細胞の役割が注目されているが、観察が難しい骨内でもその存在とある特定の状況下での役割が明らかになったことは重要である。今後はリンパ管から分泌される因子も骨格系の疾患のターゲットの一つとして捉えていくべきかもしれない。（東京大学医学部附属病院 骨・軟骨再生医療講座・寺島 明日香）