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核内受容体Nr5a2は顎の結合組織の様々な運命を促進する

Nuclear receptor Nr5a2 promotes diverse connective tissue fates in the jaw
著者:Chen HJ, Barske L, Talbot JC, et al.
雑誌:Dev Cell. 2023; 58(6):461-473
  • Nr5a2
  • 神経堤
  • クロマチンアクセシビリティ

論文サマリー

 著者らはこれまで、未分化な神経堤細胞がいかにしてその分化の方向性を決定するか、またその過程で鍵となる因子は何かという問いに挑んできた。本論文では下顎の硬組織以外の構成要素の分化過程における核内受容体Nr5a2の役割を詳細に検討した。まずゼブラフィッシュ下顎の発生過程で、Nr5a2がメッケル軟骨と重複しない様式で発現し、腱関連遺伝子Scleraxisと一部重複して発現することを示した。Nr5a2変異ゼブラフィッシュではメッケル軟骨が肥大化し、腱組織の減少がみられた。Nr5a2発現細胞の系譜解析より、腱と軟骨のlineage specificationに関与すると考えられた。神経堤細胞特異的にNr5a2を欠失させたマウスでも下顎の一部に同様の変化を認め、大唾液腺の欠損も見られた。ゼブラフィッシュにおけるシングルセルマルチオーム解析から、fgf10a、foxp2、cdh6など多くの遺伝子領域で、Nr5a2によりクロマチンへのアクセシビリティが促進され、遺伝子発現が制御されることが示唆された。

推薦者コメント

 今回の報告は多能性関連因子であるNr5a2が鰓弓の正常な分化にも寄与することを示している。鰓弓の骨格以外の発生に寄与するゲノム配列中にNr5a結合モチーフが濃縮されるという著者らの先行研究の結果とNr5a2の発現様式は整合性を有する。また、ゼブラフィッシュとマウスでNr5a2が一部共通の作用を示すことやNr5a2の標的遺伝子も見出した。これは鰓弓の発生におけるNr5a2の機能の普遍性を示唆している。蓄積された過去の大規模データから、今後も別分子に関して同様の報告がなされることを期待させる。(大阪大学大学院歯学研究科組織発生生物学講座・金井 凛・大庭 伸介)