日本骨代謝学会

The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

入会・変更手続
The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

Event/イベント情報

Book/関連書籍のご案内

member/会員ページ

Brave heart

TOP > Hot paper > 林 幹人

サーチュイン1の神経での作用が、若齢でも老齢でもマウス骨量を抑制する

A neuronal action of sirtuin 1 suppresses bone mass in young and aging mice
著者:Luo N, Mosialou I, Capulli M, et al.
雑誌:J Clin Invest. 2022: e152868.
  • SIRT1
  • 交感神経支配
  • SSRI

論文サマリー

 ヒストン脱アセチル化酵素である転写調節因子サーチュイン1(SIRT1)は全身性の抗老化に関わることが知られているが、骨では骨芽細胞分化を促進し、破骨細胞分化を抑制することが示されている。SIRT1の機能をさらに解析するためにSirt1のBAC Tgマウスを調べたところ、Runx2Bglapの発現低下と、CtskTnfsf11発現、Tnfsf11/Tnfrsf11b mRNA比の上昇による骨芽細胞・骨形成低下、破骨細胞数上昇を伴う骨量低下をきたすことが示された。著者らは、このような骨形成と骨吸収に対する相反する作用は、交感神経系(SNS)活性化による影響なのではないかと考えた。実際に、TgSirt1マウスにおいて、尿中アドレナリンとノルアドレナリン、および褐色脂肪組織におけるUcp1発現上昇が確認された。SNSは骨に対して、ノルアドレナリンの放出を介して骨芽細胞のAdrβ2に作用してBmaI1などの時計遺伝子やTnfsf11発現を増加させ、破骨細胞を活性化することが知られているが、これらの遺伝子発現もTgSirt1マウス骨で上昇していた。TgSirt1マウスに対しβブロッカーであるプロプラノロールを投与したところ、骨芽細胞数の減少と破骨細胞数の増加をどちらも抑制し、プロプラノロールを投与したコントロールマウスの骨量と同程度であった。Sirt1はSNSの活動を制御する脳幹と青斑核を含む脳の広い範囲で発現していることから、著者らはTgSirt1マウスにおけるSNS活性化が、SIRT1の中枢作用によるものであると考えた。実際に、Sirt1遺伝子領域にlox77とlox66で挟んだ逆向きのEGFP-STOP配列を挿入し、Cre依存的に遺伝子反転を誘導することで機能的Sirt1発現を欠損させ、EGFPが発現するCOIN法を用い、Sirt1COIN/COINマウスに対しAdeno-Creを第三脳室に投与して欠損させたところ、骨形成の上昇および骨吸収の低下による骨量上昇が誘導されることが明らかになった。

 神経細胞のSIRT1と骨量の関係性を探索するために、TgSirt1マウスの解析や、神経細胞で発現するSynapsin-Cre、セロトニン作動性ニューロンで発現するSert-Creおよび青斑核で発現するDbh-Cre/9-9を用い、Sirt1COIN/COINマウスと交配して特定の神経細胞で機能的SIRT1を欠損させたマウスを解析した。その結果、SIRT1の青斑核での機能は骨量に影響しない一方、脳内セロトニンの異化を誘導して脳内セロトニン量を減少させるSIRT1標的であるモノアミン酸化酵素A(MAO-A)の発現を上昇させ、脳幹のトリプトファン水酸化酵素2(Tph2)発現とセロトニン合成を抑制することにより、SIRT1による骨量低下が引き起こされていることが明らかになった。次に、老齢マウスにおけるSIRT1の神経細胞での機能と骨構成細胞における機能の重要度を比較した。Col1a1-CreおよびCd11b-Creマウスを用いて、それぞれ骨芽細胞もしくは破骨細胞の機能的SIRT1を欠損させたところ、既報の結果と一致して、骨芽細胞における機能的SIRT1欠損は骨形成および骨芽細胞数を低下させ、破骨細胞における機能的SIRT1欠損は破骨細胞数を上昇させた。しかしながら、Adeno-Creを第三脳室に注入することでこれらのマウス脳内でも機能的SIRT1を欠損させると、どちらのマウスでも末梢におけるSIRT1欠失の影響を覆し、骨の表現型を逆転させ、骨芽細胞数および骨形成の上昇と破骨細胞数の低下を引き起こすことで骨量の上昇が誘導された。これらの結果から、老齢マウスでは神経細胞のSIRT1作用が骨構成細胞で発現するSIRT1の作用を凌駕することが示された。

推薦者コメント

 これまで知られてきた骨構成細胞内でのSIRT1の機能よりも、脳内で発現するSIRT1がSNS活性を調節することによる間接的な骨構成細胞への影響が重要であることが示された。これらの結果は、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)に伴う骨に対する影響の理解に役立ち、さらに骨格や代謝疾患の治療に資することが期待される。(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科分子情報伝達学分野・林 幹人)