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Prrx1は成体マウスの骨、白色脂肪組織および真皮の幹細胞を標識する

Prrx1 marks stem cells for bone, white adipose tissue and dermis in adult mice
著者:Huijuan L, Ping L, Zhang S, et al.
雑誌:Nat Genet. 2022, 54: 1946–1958.
  • Prrx1
  • 幹細胞
  • Wnt/β-カテニン

論文サマリー

 骨や脂肪組織などの結合組織は、ミネラル代謝やエネルギーの恒常性などの様々な生理活動を制御している。しかしながら、これらの組織を成体まで維持する幹細胞の正体は不明であった。本研究で著者らは、成体幹細胞におけるPrrx1の役割を改めて検討するため、新たにPrrx1-CreおよびPrrx1-CreERT2ノックインマウスを作製した。Rosa-tdTomatoマウスとPrrx1-Creを交配すると、E8.5の側板中胚葉の他に沿軸中胚葉と中間中胚葉にもTomato+細胞が見られたことから、これまでに使用されてきたPrrx1-Creの結果と異なり、Prrx1発現が肢芽細胞に限定されないことが示唆された。成体マウスでは、骨芽細胞や軟骨細胞のみならず、脂肪細胞や真皮線維芽細胞、立毛筋および毛乳頭細胞もPrrx1により標識されたが、表皮細胞および血管内皮細胞は標識されなかった。成体マウスにおけるPrrx1発現細胞を調べるために、3ヶ月齢のPrrx1-CreERT2 tdTomatoマウスに3回タモキシフェンを投与し、異なる時点のTomato+細胞を追跡した。その結果、タモキシフェン投与後早期では少数のTomato+細胞が検出され、時間とともに増加して2ヶ月でプラトーに達した。さらに、Prrx1+細胞は骨芽細胞に分化し、標識後30日目のCol1a1+骨芽細胞の約半数を占め、360日目には鼠径脂肪組織における約半数の脂肪細胞、背側真皮のほとんどの線維芽細胞や立毛筋を標識した。以上から、Prrx1発現細胞は長期間増殖して複数の細胞型に分化し、組織のターンオーバーに関わる、長寿命の組織幹細胞である可能性が示唆された。Prrx1+幹細胞の生理的機能を明らかにするため3ヶ月齢のPrrx1-CreERT2 iDTRマウスにタモキシフェン投与後、ジフテリア毒素を3回投与することでPrrx1+細胞を欠失させた。その結果、成長板や関節軟骨に影響を与えずに骨量や骨形成速度、骨芽細胞数が低下し、骨折治癒の遅延を示した。さらに、鼠径脂肪組織重量および脂肪細胞数の減少、真皮および皮膚脂肪層の減少と皮膚損傷の修復遅延も示した。以上の結果は、これらの組織の恒常性と修復に不可欠なPrrx1発現細胞が存在することを明らかにした。

 Prrx1発現細胞の特徴を調べるため、著者らはPrrx1-CreERT2 tdTomatoマウスの骨、白色脂肪組織、真皮組織から分離したPrrx1+細胞のシングルセルRNA-seq解析を行った。いずれの組織でも2〜3のサブポピュレーションが明らかになったが、骨のPrrx1+細胞だけでなく、白色脂肪組織や真皮のPrrx1+細胞でも骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞および間質細胞に特異的な遺伝子セットを同時に発現していることが明らかとなった。また骨のPrrx1+細胞は骨格幹細胞(SSC)マーカーであるCtskを発現する一方、NesGli1、Pthlh、Grem1などの他のSSCマーカーはほとんど発現しておらず、Prrx1が既知の幹細胞とは異なる細胞を標識する可能性が示唆された。さらに、シングルセル解析のデータ等から細胞表面マーカーとして、骨髄や白色脂肪組織のPrrx1+幹細胞はCD31CD45CD29+CD130+を、皮膚のPrrx1+細胞はCD31CD45ITGAV+CD130+を同定した。Prrx1-CreERT2 tdTomatoマウスの骨や白色脂肪組織、皮膚から採取したPrrx1+細胞が幹細胞であるかを確認するため、著者らは移植実験を行った。その結果、それぞれのPrrx1+細胞が由来する骨、脂肪細胞、線維芽細胞/脂肪細胞/立毛筋にそれぞれ分化することや、移植片から採取した細胞を再移植しても同様の分化能を有していたことから、これらの細胞の幹細胞性が確認された。RNA-seq解析から、Prrx1+幹細胞ではWnt/β-カテニン経路が活性化しており、様々なWntリガンド発現が確認されたことから、Wnt分泌に必要なWlsPrrx1-CreERT2により欠損させた。これらのマウスでは、骨量、骨形成速度、骨芽細胞数などが低下するだけでなく、白色脂肪組織の脂肪細胞サイズ低下と真皮組織のKi67+細胞数の減少が観察され、これらの組織の萎縮が引き起こされた。本研究で得られた知見は、結合組織の恒常性・再生に関する知識を拡げ、幹細胞を用いた治療の改善に役立つことが期待される。

推薦者コメント

 これまでに用いられてきた2.4 kbプロモーターを用いたPrrx1-Creの結果とは異なり、Prrx1がマウスの様々な成体幹細胞のマーカーとなりうることが示された。骨髄Prrx1+幹細胞は、1割程度がLepRを発現し、NestinやGrem1は発現していなかったことから、これまでに同定されてきたSSCポピュレーションとの関連性については今後さらなる研究が期待される。(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科分子情報伝達学分野・林 幹人)