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軟部組織の外傷が惹起する間葉系幹・前駆細胞の分化制御の異常は神経血管連関が関与する

Neuron-to-vessel signaling is a required feature of aberrant stem cell commitment after soft tissue trauma.
著者:Qin Q, Gomez-Salazar M, Cherief M, et al
雑誌:Bone Res. 2022; 10(1):43.
  • 異所性骨
  • 神経血管連関
  • Type H血管

論文サマリー

 外傷により筋肉、腱、靭帯などの軟部組織に生じる石灰化を異所性骨化と呼ぶ。異所性骨ができる原因として、間葉系幹・前駆細胞(MSPC)の分化制御が異常を来し、骨・軟骨細胞への分化が誘導されることが考えられるが、そのメカニズムは良くわかっていない。著者らはこれまで、外傷を受けた部位には感覚神経線維が侵入し、それがMSPCの骨・軟骨細胞への分化を引き起こすことを報告している。今回の論文では、これらのイベントには血管系が介在することを示した。腱における外傷性異所性骨の誘導モデルマウスでは、血管系が神経線維に付随して損傷部位に侵入する所見が認められた。また、これら血管系には、エンドムチンの高発現を特徴とし、骨形成とのカップリングを示すType H血管が含まれることが示された。一方、神経切除術もしくは神経成長因子(NGF)シグナルを抑制したマウスでは、外傷部位へのType H血管の侵入が低下し、異所性骨のサイズが減少した。また、異所性骨誘導後の後根神経節では、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)をはじめとした血管誘導因子の発現上昇が認められた。さらに、異所性骨の誘導に伴い血管新生抑制因子の発現が低下することも示唆された。

推薦者コメント

著者らは、頸椎後縦靭帯骨化症患者の靭帯由来細胞、および患者から切除した異所性骨ではNGFの発現が高いことを示す所見を報告している(Nat Commun. 2021; 12(1) 4939.)。しかしながら、NGFの下流でMSPCの骨・軟骨細胞分化が誘導される詳細なメカニズムは示されていない。また、本論文においても、病態発症における神経線維とType H血管との連関は示唆されたものの、Type H血管がダイレクトにMSPCの分化異常、ひいては異所性骨を誘導する詳細なメカニズムは示されていない。(東京歯科大学口腔科学研究センター・溝口 利英)