日本骨代謝学会

The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

入会・変更手続
The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

Event/イベント情報

Book/関連書籍のご案内

member/会員ページ

Brave heart

TOP > Hot paper > 松井 廉・西川 恵三

TrkBアゴニストのプロドラッグはアスパラギンエンドペプチダーゼの阻害とオステオプロテゲリンの増加を介して骨量減少を防ぐ

A TrkB agonist prodrug prevents bone loss via inhibiting asparagine endopeptidase and increasing osteoprotegerin
著者:Jing Xiong, Jianming Liao, Xia Liu, et al
雑誌:Nat Commun. 2022 Aug 16;13(1):4820.
  • 骨芽細胞
  • BDNF/TrkBシグナル
  • オステオプロテゲリン

論文サマリー

 BDNF-TrkBシグナル 経路は骨芽細胞を活性化させ、骨折の回復を早めることが知られている。この作用機序には、Aktの活性化を介したアスパラギンエンドペプチダーゼ(AEP)の抑制がかかわる。7,8-ジヒドロキシフラボン(7,8-DHF)は、TrkBアゴニストとして様々な疾患に対しての治療効果が示されている。本研究は、経口投与可能な7,8-DHFのプロドラッグR13の骨粗鬆症に対する治療効果を検証した。AEPを欠損したマウスに加えて、R13を投与したマウスは、卵巣摘出により生じる骨量低下に対して抵抗性を示した。さらに、R13を投与したマウスでは、骨芽細胞数に変化は見られないのに対して、破骨細胞数の減少と骨形成の促進が観察された。実際、7,8-DHFは、AEPの発現抑制に伴って骨芽細胞様MC3T3-E1細胞の分化・石灰化を促進するのに加えて、転写因子CREBの活性化を介してOPGの発現を亢進した。抗RANKL抗体を投与したマウスでは、破骨細胞数が減少することで卵巣摘出に伴う骨量減少が抑制されるが、同時に骨芽細胞数の減少や骨形成の低下も生じる。これに対して、R13には、OPG増加による破骨細胞形成の阻害に加えて、AEP抑制によって骨芽細胞機能を亢進することで骨粗鬆症病態を改善する治療効果があることが明らかとなった。

推薦者コメント

 骨粗鬆症の治療には、骨吸収抑制効果をもつビスホスホネート薬や活性型ビタミンD3製剤などに加えて、骨形成を促進する副甲状腺ホルモンが広く用いられている。一方、近年注目されている抗スクレロスチン抗体には、骨吸収抑制と骨形成促進の両方の効果を併せもつ特徴がある。R13と抗スクレロスチン抗体を比較した場合、骨吸収抑制効果は、ともにOPG増加を介するために同じ作用機序であると考えられるが、骨形成促進に関しては、前者がTrkBシグナル 経路、後者がWnt/βカテニン経路と異なる作用機序をもつ。このために、両薬剤の併用によってさらなる骨粗鬆症の治療効果が期待される。さらに、医療費の増大につながるバイオ医薬品とは異なり、R13は経口投与が可能な低分子化合物であり既存薬と比べても利便性が高いことが予想され、今後注目度の高い治療薬候補の一つに挙げられる。(同志社大学生命医科学部細胞代謝化学研究室・松井 廉・西川 恵三)