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骨細胞のCIITAは骨髄腫における溶骨性骨病変を増悪させる

Osteocyte CIITA aggravates osteolytic bone lesions in myeloma
著者:Liu H, He J, Bagheri-Yarmand R, et al.
雑誌:Nat Commun. 2022; 13: 3684
  • 多発性骨髄腫
  • 骨細胞
  • CIITA

論文サマリー

 多発性骨髄腫は,破骨細胞による骨吸収の亢進と骨芽細胞による骨形成の低下によって生ずる溶骨性骨病変を特徴とする。しかし,骨髄腫の微小環境下における破骨細胞と骨芽細胞の分化・活性化の分子機構は明らかではない。本研究で著者らは,骨細胞に発現する主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスIIトランスアクティベーター(CIITA)が骨髄腫の骨病変に関与していることを明らかにした。CIITAは(RANKLをコードする)TNFSF11と(スクレロスチンをコードする)SOSTのプロモーターのヒストンH3の14番目のリジン(H3K14)をアセチル化することにより,骨細胞からのRANKLとスクレロスチンの分泌を促し,破骨細胞の分化を誘導するとともに骨芽細胞の分化を抑制する。一方,骨髄腫細胞はチミジンの分解産物である2-デオキシ-D-リボース(2DDR)を分泌することにより,STAT1/IRF1シグナル経路を介して骨細胞のCIITA発現を誘導する。骨細胞と腫瘍細胞の相互作用を阻害することが,多発性骨髄腫の溶骨性骨病変に対する新たな治療戦略となる可能性が示唆される。

推薦者コメント

 骨細胞がRANKLとスクレロスチンを分泌することにより破骨細胞と骨芽細胞による骨代謝を制御していることはよく知られるが,多発性骨髄腫ではこの骨細胞による制御が破綻し,それが溶骨性骨病変の要因となることが明らかとなった。RANKL・スクレロスチンに対する抗体はともに,骨粗鬆症のみならず多発性骨髄腫に対する有効性も示されているが,骨髄腫細胞による2DDR分泌やこれにより誘導される骨細胞のSTAT1/CIITAシグナル経路が,より根本的な治療標的となる可能性が示された。癌の骨転移など,他の溶骨性骨病変の病態解明につながる可能性にも期待したい。(東海大学医学部内科学系腎内分泌代謝内科・駒場 大峰)