日本骨代謝学会

The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

入会・変更手続
The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

Event/イベント情報

Book/関連書籍のご案内

member/会員ページ

Brave heart

TOP > Hot paper > 岡本 一男

骨髄における力学的刺激感受性脂肪分解因子は、骨形成とリンパ球産生を促進する

A mechanosensitive lipolytic factor in the bone marrow promotes osteogenesis and lymphopoiesis
著者:Hui Peng, Biao Hu, Ling-Qi Xie, et al
雑誌:Cell Metab. 2022; 34:1168-1182
  • 運動
  • 脂肪分解
  • 骨形成

論文サマリー

 トレッドミルによるラットの運動負荷モデルでは、骨髄においてトリグリセリドが減少し遊離脂肪酸が増加する点に着目し、運動による骨髄脂肪分解が骨形成とリンパ球産生に関与する可能性に関して解析をしている。まずアデノ随伴ウイルス(AAV)ベースのRNAi法を用いて骨髄脂肪細胞特異的に脂肪分解酵素ATGLの発現を低下させると、運動による骨髄脂肪細胞の減少が認められなくなった。さらに運動負荷により海綿骨量・皮質骨厚が増加し、骨髄の共通リンパ球前駆細胞(CLP)も増加する一方、ATGL発現低下でこうした運動負荷の効果がキャンセルされた。運動負荷は骨髄マクロファージからのreticulocalbin-2(RCN2)の分泌を促し、骨髄の脂肪分解を進める。実際マクロファージ特異的RCN2欠損マウスでは、運動による骨髄脂肪細胞の減少、オステオカルシン陽性骨芽細胞の増加、骨量増加、CLP増加の全てが抑制された。逆にリコンビナントRCN2(rRCN2)投与でも骨形成とCLPの増加が生じるが、AAV投与によるATGL発現低下でキャンセルされる。RCAN2はneuronilin-2とintegrin b-1からなる受容体に結合し、cAMP-PKA経路を活性化させることで脂肪分解を促進させ、脂肪酸酸化を介して骨形成を促進すると結論づけている。最後に、尾部懸垂モデルによって誘導される骨髄脂肪増加、骨量低下、CLP減少が、rRCN2投与により抑制されること、さらに老齢マウスにrRCN2投与しても同様の効果が得られることを示した。以上から、RCN2は運動と骨形成・リンパ球産生を結びつける、新規の力学的刺激感受性脂肪分解因子であることがわかった。

推薦者コメント

 骨髄CLPの割合のみでリンパ球産生度合いを評価しており、末梢リンパ球の解析がほぼ皆無なのが悔やまれる。HSV-1感染による末梢のNK細胞、B細胞、T細胞増加がマクロファージ特異的RCN2欠損マウスで抑制されることを示しているものの、運動負荷時の解析は無く、骨髄脂肪分解との関連性も不明のままである。(東京大学大学院医学系研究科骨免疫学寄付講座・岡本 一男)