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老齢骨基質由来の細胞外小胞は石灰化パラドックスのメッセンジャーとして働く

Aged bone matrix-derived extracellular vesicles as a messenger for calcification paradox
著者:Zhen-Xing Wang , Zhong-Wei Luo , Fu-Xing-Zi Li et al
雑誌:Nat Commun 2022 Mar 18;13(1):1453
  • 石灰化パラドックス
  • 細胞外小胞
  • 異所性骨化

論文サマリー

 骨髄幹細胞(BMSCs)は骨芽細胞へと分化し骨形成を担うが、老齢や閉経後には脂肪細胞へと分化することで、骨髄脂肪化や骨粗鬆症を誘導する。一方、骨粗鬆症発症時には、血管では石灰化が生じることから「石灰化パラドクス(calcification paradox)」と呼ばれる矛盾した事象が起こる。筆者らは血管内皮細胞の石灰化が細胞外小胞(EVs)により制御されることから、これに着目し、老齢や閉経後の骨格形成と血管内皮細胞の石灰化の両方を制御するのではないかと考えた。本研究では、老齢骨の骨基質由来細胞外小胞(AB-EVs)がBMSCsを骨形成方向ではなく、脂肪分化へと誘導し、さらに、血管平滑筋細胞の石灰化を増強することを示した。筆者らは若齢と老齢のラットとヒトの骨基質からEVsを精製し、老齢由来のEVsがBMSCsの分化と血管内皮細胞の石灰化を増強させることをin vitro及びin vivoで明らかにした。EVsは破骨細胞による骨吸収により細胞外へと放出されることから、アレンドロネート投与による骨吸収抑制を行ったところ、卵巣摘出マウスにおけるビタミンD3誘導性の血管内皮細胞の石灰化を抑制した。さらに、老齢骨由来EVs中にmiR-483-5pとmiR-2861が豊富に存在し、これが骨髄脂肪化と血管内皮石灰化を誘導することを示した。以上のことから、老齢骨由来EVsはmiR-483-5pとmiR-2861を伝搬することで石灰化パラドクスを誘導することを明らかにした。

推薦者コメント

 本研究は老齢骨から放出された細胞外小胞が骨髄幹細胞の脂肪細胞分化誘導と血管内皮細胞の石灰化を誘導する石灰化パラドクスに関与していることが証明された。若齢マウスであっても老齢骨由来のEVsによって骨髄の脂肪化が起こることは興味深かった。加齢により骨基質中にどのようにしてmiR-483-5pとmiR-2861を含むEVsが蓄積されるのか、実際の生体内でのEVsの動態解析などメカニズムの解明に注目していきたい。(岡山理科大学獣医学部獣医実験動物学講座・藤原 渓・伊豆 弥生)