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加齢にともなう骨髄間葉系幹細胞のクエン酸輸送体の分解亢進は、クロマチンのリモデリングを誘導して骨芽細胞分化を阻害する

Chromatin remodeling due to degradation of citrate carrier impairs osteogenesis of aged mesenchymal stem cells.
著者:Pouikli P, Parekh S, Maleszewska M, et al
雑誌:Nat Aging. 2021; 1:810.
  • 老化
  • 骨髄間葉系幹細胞
  • クロマチンリモデリング

論文サマリー

 骨髄間葉系幹細胞(BM-MSC)は、骨芽細胞に分化して骨の維持に働くが、その分化能は加齢と共に減弱する。このような老化にともなう細胞レベルの機能低下が、骨粗鬆症発症の原因の一つとして考えられるが、そのメカニズムについては良くわかっていない。本論文では、ミトコンドリアと核との連関がBM-MSCの老化に深く関わることを、以下の所見から見出した。(1) 老齢マウス由来のBM-MSC(Old-MSC)では、骨形成関連遺伝子領域におけるヒストンアセチル化レベルが低下し、転写因子のアクセシビリティーが減少していた。(2) Old-MSCでは、ミトコンドリアのクエン酸輸送体(CiC)が減少していた。これにより細胞質へのクエン酸の搬出が滞る結果、アセチル基の供与体であるアセチルCoAが減少してヒストンアセチル化が減弱した。(3) Old-MSCでCiCレベルが低下するメカニズムとして、ミトコンドリア由来の小胞(MDV)を介したCiCのリソソームへの輸送が亢進することが示された。(4) Old-MSCに対するCiCの過剰発現、または酢酸塩の添加により、ヒストンアセチル化レベルと骨芽細胞分化能が回復した。(5) ヒト由来のOld-MSCにおいてもCiCとヒストンアセチル化レベルの低下が確認された。

推薦者コメント

 MDVを介したCiCの分解亢進が、MSCにおける老化の引き金となることが示された。これに関して、加齢にともないミトコンドリアのストレス応答が上昇し、MDVが増えることを考察しているが、その詳細なメカニズムは不明である。また、ミトコンドリアを介したクロマチンリモデリングの誘導が、細胞に普遍的な老化機構であるかについても不明であり、今後の成果が待たれる。(東京歯科大学口腔科学研究センター・溝口 利英)