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老化に関連したVEGFシグナル伝達低下を改善することで健康的な老化を促進し寿命を延長する

Counteracting age-related VEGF signaling insufficiency promotes healthy aging and extends life span
著者:Grunewald M, Kumar S, Sharife H, et al.
雑誌:Science. 2021, 184: 1330–1347.
  • VEGF
  • sFlt1
  • 血管

論文サマリー

 加齢は血管疾患のリスクファクターとして確立されているが、加齢に伴う血管機能の低下自体が臓器の生理機能に影響を及ぼす可能性がある。本研究では、加齢に伴うVEGFデコイ受容体sFlt1 mRNAの選択的スプライシングの変化の結果、血管でのsFlt1産生増加によってVEGFシグナル伝達不全が引き起こされ、複数の臓器において老化を促進する可能性が明らかにされた。そこで、肝細胞特異的LAP-tTA TRE-VEGF-A164および血管内皮細胞特異的Cdh5-tTA TRE-sFlt1のそれぞれの2重Tgマウスに対し、テトラサイクリン投与を中止することによりVEGFおよびsFlt1が血流を介して全身に供給されるマウス(VEGFマウスおよびsFlt1マウス)が作製された。これらマウスの肝臓、骨格筋、褐色および白色脂肪組織における微小血管密度を調べたところ、24ヶ月齢のマウスで観察された微小血管希薄化が、VEGFマウスでは顕著に抑制されていた一方、sFlt1マウスでは16ヶ月齢で促進されており、さらにVEGFマウスは雌雄ともに生存期間の中央値や最大寿命が長く、その生存曲線からVEGFシグナルの改善が健康寿命延長効果を示す可能性が示唆された。これらのマウスでは、褐色脂肪組織およびベージュ脂肪細胞が維持され代謝や体組成が若齢時に近いことによる体重増加の抑制や、肝臓での脂質蓄積の抑制、筋細胞の核が細胞の中心部に局在する老化に特徴的な現象の低下、ミトコンドリア数の低下によるサルコペニアの抑制、骨量減少や後弯症の改善、inflammaging(加齢に伴う多臓器の慢性炎症)の低下、腫瘍の減少など、加齢に伴う多くの異常が改善されていた。また、VEGFマウスの代謝表現型は野生型マウスへのアデノ随伴ウイルスを用いたVEGF-A164の過剰発現でも同様に観察された。以上から、老化マウスにおいてVEGFシグナルの低下が多臓器の老化に影響し、この経路を調節することで哺乳類の寿命を延ばし、全身の健康状態が改善される可能性が示唆された。

推薦者コメント

 血中VEGF-A量を約2倍程度上昇させるだけで寿命を延ばし、多臓器の老化を防ぐ可能性が示された。一方、VEGF-Aが血管以外の脳や免疫系を含めた臓器・細胞に直接与える影響や、がん患者などに使用されるVEGF阻害薬の多臓器老化に与える影響などについては、今後さらなる研究が必要と考えられる。(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科分子情報伝達学分野・林 幹人)