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老化骨格幹細胞は炎症性変性ニッチを形成する

Aged skeletal stem cells generate an inflammatory degenerative niche
著者:Ambrosi TH, Marecic O, McArdle A, et al.
雑誌:Nature. 2021, 597: 256–262.
  • 骨格幹細胞
  • 老化
  • M-CSF

論文サマリー

 加齢に伴う骨量減少は、多様な分子細胞生物学的プロセスが反映されているため、閉経後骨粗鬆症と比べてあまり理解は進んでいなかった。本研究で著者らは、マウス骨格幹細胞(SSC)自体が老化することにより、骨髄ニッチにおける骨・血球系の分化が偏ることで骨の脆弱化が惹起されることを明らかにした。

 免疫不全NSGマウス腎被膜下へのSSC移植実験から、老化SSCは骨軟骨形成能が低下する一方で、炎症性サイトカインや骨吸収促進サイトカインを強く発現する間質細胞に分化しやすくなることが示された。老齢と若齢のマウス並体結合(ヘテロクロニック)実験では、老齢マウス側におけるBMDやSSCの頻度、骨折再生実験における仮骨BMD、SSC骨軟骨形成能はいずれも改善しなかった。対照的に、ヘテロクロニック並体結合における若齢マウス側のBMDとSSC頻度は、若齢マウス同士の並体結合と比較して有意に低下し、骨折再生実験における破骨細胞活性が上昇した。また、造血幹細胞(HSC)加齢の特徴としてミエロイド系への分化の偏りが知られているが、若齢マウスから採取したHSCを若齢または老齢マウスに移植しところ、ドナー由来末梢血細胞および骨髄細胞の組成は老齢マウスでミエロイド系に偏っていた。次に、老齢マウスのSSC由来間質細胞と共培養したHSCを移植すると、若齢マウス細胞を用いた場合と比較して、末梢血中および骨髄中のミエロイド系細胞の割合が増加した一方、リンパ系細胞は減少した。これらの結果から、老化SSC由来細胞が加齢に伴うミエロイド系分化への偏りを促進し、SSCの老化が造血系の老化のドライバーになっていることが示唆された。

 さらに、3日齢、2ヶ月齢、24ヶ月齢マウス長管骨SSCのシングルセルRNA-seq解析を行った結果、老化SSCにはCxcl12陽性で造血系ニッチを構成するクラスターが最も多く含まれ、単球およびマクロファージの走化性に関連する遺伝子が濃縮されていた。その他の様々な解析から、老化SSCが骨形成能を失う一方で造血系細胞との相互作用が増加し、これが骨髄ニッチの変化に寄与している可能性が示された。また、SSCおよび著者らが以前同定したSSC系列ポピュレーションの経時的なトランスクリプトーム解析の結果、RANKLは2ヶ月齢からすでに高いレベルで発現していたのに対し、M-CSFは24ヶ月齢マウスでの上昇が顕著であったことから、著者らはM-CSFに着目した。老化SSCにおける骨軟骨形成能低下と破骨細胞分化促進性ニッチ形成能上昇を制御するため、BMP2、抗M-CSF抗体、2つの組み合わせ、またはPBSを含むハイドロゲルを24ヶ月齢マウスの骨折モデル局所に投与した。その結果、BMP2と抗M-CSF抗体の組み合わせにより老化SSCを再活性化させ、同時に炎症や破骨細胞形成を促進する環境を抑制することで、骨折治癒を若齢と同等レベルに戻すことが可能であった。また、高用量のM-CSF抗体とBMP2の組み合わせは骨折修復後の仮骨形成や力学的強度の改善能が低かったことから、正常な骨リモデリングと骨再生にはM-CSF量が厳密にコントロールされる必要があることも示唆された。以上から、本研究は骨老化の原因となっている複雑で多因子性のメカニズムを明らかにし、骨を若返らせることができる可能性を示した。

推薦者コメント

 本報告では、加齢がSSCに直接的に影響を与え、それによる機能異常が骨老化につながることが明らかにされた。一方、加齢に伴う骨量減少に重要な役割を果たすことが知られる細胞老化関連分泌形質(SASP)と老化SSCの関連性や、自己再生能などの幹細胞機能との関連などについては今後さらなる研究が期待される。(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科分子情報伝達学分野・林 幹人)