骨格系幹細胞/前駆細胞は、頭蓋骨縫合の開存を維持し、頭蓋骨縫合早期癒合症を予防する
著者: | Menon S, Salhotra A, Shailendra S et al |
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雑誌: | Nat Commun. 2021; 12(1):4640. |
- 頭蓋骨縫合早期癒合症
- 骨格系幹細胞/前駆細胞
- Wnt
論文サマリー
頭蓋骨縫合早期癒合症では、頭蓋縫合が通常よりも早期に閉鎖してしまう。近年、頭蓋縫合に存在する骨格系幹細胞(間葉系幹細胞)が、頭蓋の成長や縫合の発達、修復時に機能している可能性が示唆されている。筆者らは、頭蓋縫合にはCD51陽性CD200陽性骨格系幹細胞/前駆細胞が存在し、縫合閉鎖とともにその数が著明に減少することを明らかにした。また、頭蓋縫合に存在するCD51陽性CD200陽性骨格系幹細胞/前駆細胞は、縫合閉鎖時期の異なる縫合間で転写遺伝子の不均衡を示していた。なお、CD51陽性CD200陽性骨格系幹細胞/前駆細胞は、Wntシグナルによる調節を受けており(活性化により細胞数増加、抑制により減少)、冠状縫合早期癒合モデルマウスでWntシグナルを活性化させると、縫合の早期癒合が抑制された。以上のことから、頭蓋骨縫合早期癒合症では、骨格系幹細胞/前駆細胞の減少と遺伝的不均衡が同時、あるいは、単独で生じた結果、早期癒合が誘導される可能性が示唆された。
推薦者コメント
頭蓋骨縫合早期癒合症は、遺伝子異常により頭部に病変がみられる非症候群性と、頭部のみならず顔面部にも症状がみられる症候群性に区別されているが、非症候群性早期癒合症の病態メカニズムは長らく不明であった。本論文は、筆者らによる骨格系幹細胞/前駆細胞単離技術(Cell. 2015; 160, 285-298)を応用して、頭蓋骨縫合早期癒合症のメカニズムの一端をトランスクリプトミクスからin vivoの動物レベルで明らかにした、非常に興味深い報告である。(北海道大学歯学研究院硬組織発生生物学教室・長谷川 智香)