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骨髄微小環境は転移性腫瘍を活性化し、さらなる播種を可能にする

The bone microenvironment invigorates metastatic seeds for further dissemination
著者:Weijie Zhang, Igor L. Bado, Jingyuan Hu, et al
雑誌:Cell. 2021; 184:2471-2486.
  • 骨髄微小環境
  • がん
  • 転移

論文サマリー

 著者らは以前、マウスの腸骨動脈内に乳がん細胞株および前立腺がん細胞株を投与することで後肢骨に転移させる骨転移モデルを樹立している。このモデルでは骨転移が成立した後にやがて、肋骨や椎骨など全身の骨、肺、肝臓、腎臓、脳など多臓器に転移する現象が確認できた。一方、乳がん細胞株の同所性移植モデルや、腸骨静脈投与により肺転移を誘導させた場合では、多臓器転移の頻度は極めて低い。パラバイオーシス及びCRISPR/Cas9システムを用いたバーコードシステムを用いた解析により、骨の微小環境ががん細胞のさらなる転移を促し、多臓器に亘る二次性転移を誘導することを明らかにした。骨に転移した腫瘍細胞は、ヒストンメチル基転移酵素EZH2活性の増強により、ALDH1やCD44といった幹細胞性に関わる遺伝子や上皮間葉転換関連の遺伝子の発現が上昇する。以上より、骨髄微小環境に晒された腫瘍細胞ではエピゲノムの再プログラミングが起こり、多臓器に転移しやすくなる細胞性質を獲得することが示された。

推薦者コメント

 バーコードシステムを用いた解析により、骨微小環境の転移促進効果は特定の臓器指向性を示していないことから、いわゆるがん転移の分子機序を説明する「clonal selection説」とは異なる機序であると主張している。EZH2の発現増強の上流としてFGFRやPDGFRシグナルを候補として挙げているものの、本研究ではその重要性を実証しておらず、骨髄微小環境がどうして腫瘍細胞の幹細胞性や転移能獲得をもたらすのか、分子機序に関する詳細な解析が期待される。(東京大学大学院医学系研究科骨免疫学寄付講座・岡本 一男)