ヒトの神経堤において極めて離れた遠隔部位にあるエンハンサーの欠失が頭蓋顔面疾患を引き起こす
著者: | Long HK, Osterwalder M, Welsh IC, et al |
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雑誌: | Cell Stem Cell. 2020; 27(5):765-783. |
- ピエールロバン症候群
- Sox9
- Long-range enhancer
論文サマリー
ピエールロバン症候群 (Pierre Robin sequence: PRS) は下顎の低形成を示し、小下顎症や気道閉塞による呼吸困難を主症状とする疾患である。Sox9遺伝子座のセントロメア側に位置する非翻訳領域の変異がその発症に関与することが示唆されていた。本論文では、PRS患者の遺伝子欠失変異領域を、ヒト神経堤細胞を用いたChIP-seqおよびATAC-seqデータと照らし合わせ、Sox9上流1 Mbを超える位置にSox9に対する2つのエンハンサー領域 (Long-range enhancer) を見出した。これらエンハンサーの活性は神経堤細胞だけで認められ、より未分化な胚性幹細胞、もしくは分化が進んだ軟骨細胞では不活性化状態にあった。また、Coordinatorモチーフ (Cell. 2015; 163:68-83) が本エンハンサー活性の発現に必須であることを示し、さらに神経堤特異的な遺伝子欠損マウスモデルを用いて、エンハンサー領域の欠如がPRSの発症に繋がることを証明している。
推薦者コメント
顎顔面発生過程において、遠隔に位置するエンハンサーがSox9レベルを厳密に制御し、それが正常な下顎骨の形成に必須であることを示した重要な論文である。今回見出されたエンハンサー活性は、組織および時期特異的に発現するが、その分子メカニズムについては不明である。さらに本論文では、頭蓋顔面発生への関与が示唆される転写因子TWIST1が本エンハンサー領域に結合することも示されているが、その役割の解明には至っておらず、さらなる報告が待たれる。(東京歯科大学口腔科学研究センター・溝口 利英)