MEKK2は神経線維腫症I型における異常なERK活性化を媒介する
著者: | Bok S, Shin DY, Yallowitz AR, et al. |
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雑誌: | Nat Commun. 2020; 11: 5704 |
- ERK
- MEKK2
- 神経線維腫症I型
論文サマリー
神経線維腫症I型(NF1)はNF1遺伝子の欠失によって生じ,著しい骨格変形をきたすことを特徴とする。ERK活性化キナーゼMEK1/2の阻害薬はNF1の有望な治療薬であるが,ERK経路を広範囲に阻害するため,毒性により治療が制限されることが課題であった。著者らは,骨組織においてNF1欠失の下流にあるERK活性化を選択的に阻害する因子を探索し,骨芽細胞における非古典的ERK経路の新たな構成因子として同定したMEKK2が,NF1欠失による異常なERK活性化を媒介することを突き止めた。成熟骨芽細胞特異的Nf1排除マウス(Nf1fl/fl;Dmp1-Cre)はNF1に特徴的な骨格異常を呈し,Mekk2-/-マウスも骨量低下を示したが,Nf1fl/fl;Mekk2-/-;Dmp1-Creマウスでは骨格異常の劇的な改善が認められた。さらに著者らはproof of principleとして,既にFDAに承認されMEKK2阻害作用を有するチロシンキナーゼ阻害薬ポナチニブが,Nf1fl/fl;Dmp1-Creマウスの骨格異常を改善することを確認した。以上の結果より,MEKK2は骨芽細胞におけるERK経路の構成因子として機能し,NF1の新たな治療標的となる可能性が考えられる。
推薦者コメント
NF1はレックリングハウゼン病とも呼ばれ,カフェ・オ・レ斑と神経線維腫に加え,骨,眼,神経系などに多彩な症候を呈する常染色体性優性の遺伝性疾患である。本研究により,ERK経路を構成するMEKK2がNF1に伴う骨病変の新たな治療標的となる可能性が示された。本研究で使用されたポナチニブは慢性骨髄性白血病の治療薬として既に実用化されている。今後,NF1における早期の臨床応用が期待される一方,より選択的なMEKK2阻害薬の開発が待たれる。また,骨病変以外の症候にもMEKK2が治療標的となるかに関しても,今後検討が必要と考えられる。(東海大学医学部内科学系腎内分泌代謝内科・駒場 大峰)