障害腎に由来するグリセロール3-リン酸はFGF23産生を制御する
著者: | Simic P, Kim W, Zhou W, et al. |
---|---|
雑誌: | J Clin Invest. 2020; 130: 1513-1526 |
- FGF23
- グリセロール3-リン酸
- 急性腎障害
論文サマリー
FGF23は尿中リン排泄を促進し,1,25-dihydroxyvitamin D産生を抑制する骨由来の液性因子である。FGF23の異常は疾病や死亡に関わるが,その調節機構の全容は明らかでない。FGF23の主たる標的臓器は腎臓であることから,著者らは腎臓がFGF23産生の調節因子を分泌するという仮説を検討した。アプタマーを用いたプロテオミクスと液体クロマトグラフィー質量分析法を用いたメタボロミクスを組み合わせ,著者らはヒト腎静脈の血漿から1600種以上の分子を分析し,グリセロール3-リン酸(G-3-P)がFGF23の血中濃度に強く相関することを見出した。マウスにG-3-Pを投与すると,G-3-Pアシルトランスフェラーゼ(GPAT)を介してリゾホスファチジン酸(LPA)の局所産生を誘導することにより,骨・骨髄のFGF23産生が刺激された。ヒトおよびマウスに急性腎障害(AKI)を惹起するとFGF23とともにG-3-Pは速やかに上昇したが,マウスにGPAT阻害薬を投与,あるいはLpar1を排除するとAKIに伴うFGF23上昇は見られなかった。腎由来のG-3-Pは,AKIに伴うFGF23産生亢進に対する治療標的の候補となるかもしれない。
推薦者コメント
急性腎障害時にFGF23が急速に上昇することは以前より知られていたが,その機序は不明であった。今回の研究により,障害された腎臓から分泌されるG-3-PがFGF23産生の主要な因子であることが明らかとなった。急性腎障害に伴うFGF23は,1,25-dihydroxyvitamin D低下,二次性副甲状腺機能亢進症の要因となり,さらに心血管リスクや死亡リスクにも関連する。一方,FGF23には急性腎障害に伴う高リン血症を緩和するという重要な役割も併せ持つ。G-3-Pを標的としてFGF23産生を抑制することが腎予後の改善につながるのかどうか,今後重要な検討と考えられる。(東海大学医学部内科学系腎内分泌代謝内科・駒場 大峰)