アポトーシス細胞から放出された代謝産物は組織のメッセンジャーとして働く
著者: | Medina CB, Mehrotra P, Arandjelovic S, et al |
---|---|
雑誌: | Nature. 2020; 580: 130-135 |
- アポトーシス
- 炎症
- 代謝
論文サマリー
アポトーシス細胞はネクローシスと異なり、周辺組織に炎症を起こすことなく、貪食により静かに除去される。以前より、アポトーシス細胞は速やかに貪食細胞を引き寄せるためfind-meシグナルと呼ばれる因子を放出することが知られていたが、本研究では特定の代謝産物が選択的に分泌され、周辺組織に対してfind-meシグナルとは別の作用を促すことを明らかにした。アポトーシス細胞が分泌する代謝産物として特にAMP、GMP、クレアチニン、スペルミジン、リン酸グリセロール、ATPが重要であり、周辺細胞に作用すると抗炎症作用や細胞増殖、組織修復に関連する遺伝子を誘導する。興味深いことに、これらの代謝産物は単に細胞膜破壊が原因で放出されるのではなく、PANX1という細胞膜チャネルによる輸送が関与しており、またスペルミジンはアポトーシス開始後に合成される。さらに関節リウマチモデル、肺移植拒絶モデルでは、これらの代謝産物の投与により炎症病態が抑えられることが確かめられ、アポトーシス細胞が能動的に分泌する代謝産物の重要性が示された。
推薦者コメント
組織恒常性の維持のために、細胞は死にゆく過程で事前に周囲にメッセージ(遺言)を伝えているという非常にconceptualな報告。著者らはこの代謝産物を「good-byeシグナル」と名付けている。In vivoモデルでは抗炎症作用しか実証できていないが、アポトーシスが関与する様々な生理学的イベントにおいて、こうした代謝産物が標的細胞の種類に応じて多様な作用を及ぼす可能性も考えられ、今後の展開が興味深い。(東京大学大学院医学系研究科骨免疫学寄付講座・岡本 一男)