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Notchシグナルは滑膜線維芽細胞のアイデンティティを決め、関節炎病態を制御する

Notch signalling drives synovial fibroblast identity and arthritis pathology.
著者:Wei K, Korsunsky I, Marshall JL, et al
雑誌:Nature. 2020; 582: 259-264
  • 関節リウマチ
  • 線維芽細胞
  • 炎症

論文サマリー

 関節リウマチ(RA)の滑膜線維芽細胞に関しては以前、滑膜下層(sublining)のThy1+細胞集団と、RANKLを発現し関節破壊に関わる滑膜表層(lining)のThy1-細胞集団が報告されていた。本研究ではヒトRA滑膜組織を用いたシングルセル解析から、滑膜線維芽細胞はこうした2種の集団に明確に分類できるのではなく、滑膜下層の血管周囲から表層にかけて、解剖学的位置関係に沿って連続的に細胞性質が変化しながら存在することが明らかにされた。また血管内皮細胞由来のNotchリガンドJAG1やDLL4の作用が、滑膜下層Thy1+滑膜線維芽細胞の分化に重要である。興味深いことに、滑膜線維芽細胞でNotchシグナルが活性化されると、さらにJAG1とNotch3の発現が誘導されるため、血管を起点としたNotchシグナルの勾配が形成され、それが滑膜線維芽細胞の位置的なアイデンティティを規定していることが判明した。RA滑膜ではNotchシグナルが活性化した滑膜線維芽細胞の割合が増加している。さらにマウスのRAモデルではNotch3遺伝子欠損ならびに抗体によるNotchシグナル阻害で、関節炎及び骨破壊が抑えられることが示された。

推薦者コメント

 RAの滑膜線維芽細胞がヘテロジニアスといえども、単純に複数のクラスターに分類されるのではなく、連続的に変化しながら滑膜組織に分布していることが分かった。間違いなくシングルセルデータを用いたtrajectory解析の恩恵が大きい。RA以外の関節疾患や線維芽細胞が関わる様々な病態研究においても同様の解析アプローチが有効であろう。また滑膜表層のThy1-細胞集団を決定づける分子基盤についても今後の解析が期待される。(東京大学大学院医学系研究科骨免疫学寄付講座・岡本 一男)