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脂質の可用性はSOX9を介して骨格前駆細胞の運命を決定する

Lipid availability determines fate of skeletal progenitor cells via SOX9
著者:van Gastel N, Stegen S, Eelen G, et al.
雑誌:Nature. 2020, 579: 111–117.
  • 脂質
  • FOXO
  • Sox9

論文サマリー

 軟骨は無血管であるが、栄養供給の欠如が軟骨形成制御に関わるかどうかということや、そのメカニズムは不明であった。著者らは、骨の(自家)移植とその周囲にポリカーボネートフィルターを配置することによる骨の治癒過程における血管侵入の阻害が、骨格前駆細胞からの軟骨形成性分化を促進することを明らかにした。また、in vitroの実験からこの過程は細胞外脂質の低下によって引き起こされることが分かった。脂質が不足すると、骨格前駆細胞において転写因子FOXOファミリーが活性化され、それらがSox9プロモーターに結合してその発現を上昇させる。Sox9は軟骨形成を促進するだけでなく、脂肪酸β酸化を抑制することによって細胞内代謝の調節因子としても機能して、無血管状態に適応させる。これらの結果から、骨格系細胞の運命決定には微小環境の栄養状態が重要であることが示唆された。

推薦者コメント

 マウスの骨移植という卓越した技術が求められる実験を行い、低酸素以外の無血管の重要性が明らかにされた。骨折治癒において、血管供給が不十分な領域の細胞では細胞内脂質の分解により一時的にβ酸化が維持されるが、細胞外脂質の欠乏によるFOXO転写因子の活性化がSox9発現を上昇させ、軟骨分化の促進とβ酸化の抑制が誘導される。細胞外脂質によるFOXO抑制にはFFAR1とFFAR4の関与が示唆されたが、さらなる研究の進展が期待される。(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科分子情報伝達学分野・林 幹人)