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シングルセル及び空間トランスクリプトミクス解析の組み合わせにより明らかにされた骨髄ニッチの分子、細胞、空間の構成

Combined single-cell and spatial transcriptomics reveal the molecular, cellular and spatial bone marrow niche organization.
著者:Baccin C, Al-Sabah J, Velten L, et al.
雑誌:Nat Cell Biol. 2020, 22: 38–48.
  • シングルセル解析
  • 骨髄ニッチ
  • CAR細胞

論文サマリー

 これまで、骨髄ニッチの細胞構成やサイトカインの細胞ソースは完全には解明されていなかった。著者らは、骨髄のシングルセルRNA-seq解析により主要な造血・間質細胞系列の細胞構成を決定し、さらにレーザーキャプチャーマイクロダイセクションを駆使することで骨髄の類洞、細動脈、骨内膜、骨内膜周囲および非血管領域でのRNA-seq解析を行い、骨髄ニッチの分子・細胞・空間構成を体系的にマッピングした。さらに、CXCL12高発現細網細胞(CAR細胞)集団内に、Adipo-CARおよびOsteo-CARの 2つの異なるサブポピュレーションを発見し、空間トランスクリプトミクスデータから主にAdipo-CARは類洞に、Osteo-CARは細動脈および非血管ニッチに局在し、「プロフェッショナルサイトカイン分泌細胞」として働くことで血管周囲の微小ニッチを確立することが示された。さらに著者らは間質細胞と造血細胞の間の相互作用を推測するために、細胞接着分子とそのリガンドの発現パターンに基づいて単一の細胞と「アトラクター」細胞集団間の物理的相互作用を予測するアルゴリズムRNA-Magnetを新たに開発した。この解析で、Adipo-CARおよびOsteo-CAR集団の局在などの空間トランスクリプトミクスのデータと一致した結果が得られ、シングルセルでの遺伝子発現データから、その局在が予測可能となった。以上から、本研究は骨髄ニッチの細胞と空間の構成を明らかにし、臓器全体の複雑な構成を解析する体系的なアプローチを提供する。

推薦者コメント

 近年次々とシングルセルRNA-seq解析を用いた骨髄細胞の解析結果が報告されているが、本研究はそれらの結果と一致する内容である。本研究で明らかにされた、各間質細胞集団のトランスクリプトーム、それらの骨髄内での局在、差次的および局所的サイトカイン発現は、加齢や疾患などの様々な条件下でどのような影響を受けるかなど、さらなる研究の進展が望まれる。(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科分子情報伝達学分野・林 幹人)