骨やすめ

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骨やすめ映画館

【骨やすめ映画館】映画の話 ゲイリー・オールドマン vs.ヒュー・グラント

大薗 恵一

 今年、ゲイリー・オールドマンが悲願のオスカーを獲得しました。長らくその演技力が高く評価されていながら、アカデミー賞とはほぼ無縁でした(「裏切りのサーカス」で主演男優賞にノミネートされているが)。しかし、2018年、「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」で、主役を演じたゲイリー・オールドマンが、ついにアカデミー賞主演男優賞を受賞しました。この映画では、オールドマンをチャーチルに変身させた特殊メークアーチストの辻一弘さんも、アカデミー賞メイクアップ賞を受賞しましたので、日本でも大きな話題となりました。チャーチル首相を演じたオールドマンは、特殊メイクにより、本人とわからないほどですが、愛くるしさを感じるつぶらな瞳は、やはりオールドマンでした。癖のあるチャーチルを、むしろソフトな印象を与えるように行った演技が光りましたし、圧巻は最後の演説でした。説得力があり、議員に、国民に、そして映画鑑賞者に感動を与えるものでした。この少し前に公開されたクリストファー・ノーラン監督の「ダンケルク」とセットで見るのが良いと言われていますが、確かにダンケルクの救出作戦という背景が分かると、なぜ、前首相らと形勢判断が異なる苦渋の決断を行ったかが理解できます(「ダンケルク」はそれ自体作品としても素晴らしい出来の映画です)。「ダンケルク」では、全然触れられていないカリーにいる兵士の犠牲により、ダンケルクの救出作戦の成功がもたらされたのです。チャーチルは明確にカリーにいる人々は犠牲にする(救出はしない)という決断を、批判をおして行います。さらに、英国の一般の船を募ってダンケルクの兵士の救出を行いますが、このあたり、国民との一体感が出て、未だに皆に語り継がれるのでしょう。

「裏切りのサーカス」
「裏切りのサーカス」
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 ゲイリー・オールドマンって誰?と思っている人でも必ず見たことがあるはずです。彼は多数の作品に出演し、その都度、記憶に残るような演技をしております。メジャーなところでは、リュック・ベッソン監督の「レオン」で主役のジャン・レノ演じる殺し屋を追い詰めるジャンキーでダークな刑事役を演じました。クラッシックを聞きながら、無実の人を殺害する狂気を体現しました。同じくリュック・ベッソン監督の「フィフス・エレメント」でも、大阪弁で言うけったいな髪型をしたエクセントリックな敵役を演じました。「JFK」でのオズワルド役や、「エアフォース・ワン」での襲う側のリーダー役など、米国大統領を狙うという究極の悪役もこなしております。一方で、「ハリー・ポッター」シリーズではシリウス・ブラックを、バットマンシリーズ(クリストファー・ノーラン監督、クリスチャン・ベールがバットマンの三部作)では、街を守る警察本部長役など、正義感があり主役をサポートする役柄もこなしています。おすすめの映画は「裏切りのサーカス」で、たくさんの素晴らしいイギリス俳優が出演している中で、主役を張っています。今後の活躍がますます楽しみです。

「アバウト・ア・ボーイ」
「アバウト・ア・ボーイ」
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 今回、ゲイリー・オールドマンと対比させたい俳優がヒュー・グラントです。私の好きなジャンルであるロマンティクコメディーの帝王です。もうひとりの帝王だったトム・ハンクスは、その演技力を生かして、渋い役をこなすようになりましたが、ヒュー・グラントは未だ半分以上、ロマンティックコメディーの世界にとどまっています。ハンサムだけどちょっとタレ目で親しみやすく、気が弱くてなかなか自分から女性を誘えないという、ロマンティックコメディーの王道たる母性本能をくすぐるイケメンという立ち位置でしょうか?当然、女性との共演が多く、「フォー・ウェディング」でアンディ・マクダウェルと、「ノッティングヒルの恋人」でジュリア・ロバーツと「ブリジット・ジョーンズ」でレネー・ゼルウィガーと「トゥーウイークスノーティス」でサンドラ・ブロックと共演しています。若さに陰りが出てからも「ラブソングができるまで」ではドリュー・バリモアと、「噂のモーガン夫妻」でサラ・ジェシカ・パーカーと「マダム・フローレンス! 夢見る二人」でメリル・ストリープと共演しています。「マダム・フローレンス! 夢見る二人」は、音痴の夫人をサポートして、カーネーギーホールでリサイタルを行うのを達成するというストーリーですが、当然メリル・ストリープは主役の内面まで表現する演技をしますが、ヒュー・グラントの方も単なるお人好しではない面をみせていて、2人の演技の競い合いは見ものです。ヒュー・グラントが笑顔の裏に隠された人間心理などを表現できるようになっていて、良い俳優になったなと思いました。さらに、彼は、ロマンティックコメディーを離れて、「Re:Life〜リライフ〜」のちょっと自虐的な役や、「コードネームU.N.C.L.E.」、「パディントン2」での癖のある役で、存在感を見せています。「パディントン2」は、ぜひ、「パディントン」とあわせて観てください。私自身は「アバウト・ア・ボーイ」が大好きで、この映画を観て彼のファンになりました。ちょっとエクセントリックな母親に育てられている男の子(ニコラス・ホルト)との疑似父息子の関係がうまく伝わってきます。

 演技派で有名なゲイリー・オールドマンに対抗して、なぜ、ヒュー・グラントが出てくるのかと思われる方も多いかと思いますが、私にとっては、人生の対比が面白い2人です。ゲイリー・オールドマンは、1958年生まれですが、父親はアルコール中毒で、本人もアルコール依存症の時期があるようです。役者を志しますが、王立演劇学校には入れませんでした。それでも演劇の勉強を続け、早くから舞台に立って演技を磨いていきます。4回離婚し、5回結婚して、子どもも孫もいる立場です。今回アカデミー賞受賞時に、前妻から人格を否定されるような発言があったのに対して、子どもがゲイリーを擁護するというようなエピソードもありました。

 一方のヒュー・グラントですが、1960年生まれで、オックスフォード大学在学中に、オックスフォードのプロモーション映画のようなものに出演して俳優の道に入りました。卒業後、友人と劇団を設立し、テレビに出演して有名になりました。1994年には「フォー・ウェディング」でゴールデングラブ主演男優賞を受賞しました。このように俳優のキャリアは順調でしたが、私生活ではわいせつ行為で逮捕されたりしています。また、結婚はせず、2人の女性との間に4人の子どもをもうけています。そんな彼が、2018年ついに、子どもをもうけた女性とは別の女性と結婚しました。なかなか他では聞かない女性遍歴ですが、芸のためなのでしょうか?私生活でも、ゲイリー・オールドマンと良い勝負でしょ。