【ソクラテスの書棚】荻原浩作「明日の記憶」
ヒロシ
些細な、いやなことが沢山あるけど、いつかは忘れる。これは、ポジティブな忘却。覚えているはずなのに、すっかり、忘れる。これは、ネガティブな忘却。私たち50代の会話によく出てくる「あれよあれ、それよそれ」の主因。
この物語、タイトルが少し変ですよね。「明日の記憶」。記憶は過去のものなのに、なんだか変な題名と思って読み始めました。
読んでいくと、どんどん引き込まれて行きます。物語に出てくる出来事が非常に、自分に心当たりある忘却の連続。しかも、主人公は私と同じくらいの年齢にもかかわらず、若年性のアルツハイマーに向かっている。どこかで共感を断たなければ!という心の焦り。
そうなのです。明日の記憶というのは、明日の自分の記憶はどうなっているのだろうという主人公の心の焦りをタイトルにしたものなのです。実に、腑に落ちるタイトルでした。
私たちの倉敷読書会「ソクラテスの会」でも、同世代4名が自分を振り返り、また少しずつ老いていく両親を思い、語り明かした心に残る一冊でした。同会の勝手にランキングで2015年のアワードに選ばれた作品。ぜひ一読を!
途中から客観的に読めるようになるとホッとします。