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ソクラテスの書棚

【ソクラテスの書棚】高野和明作「ジェノサイド」

中島 友紀
高野和明「ジェノサイド」
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「もしも任務遂行中に、見たことのない生き物に遭遇したら、真っ先に殺せ!」-(本文から)―

特殊部隊出身の傭兵、ジョナサン・イエーガーは、いわゆる汚い仕事を承諾する。彼は難病を抱える息子の命を救うため、大金を稼ぐ必要があったのだ。
イエーガー率いる暗殺チームは、危険な新種のウイルスに感染したピグミー族と行動を共にする人類学者を暗殺するため、戦争状態にあるコンゴ民主共和国のジャングル地帯に潜入する。
その任務が、ホワイトハウスからの命令で“人類絶滅の危機”を防ぐため発動された極秘作戦とは、彼らが知るよしもなかった。
同じ頃、創薬化学を専攻する大学院生古賀研人のもとに、急死したはずの父親から1通のメールが届く。ウイルス学者だった父親が残した不可解なメッセージと“GIFT”と言う極めて高度な創薬開発ソフト。
そして、生前、父親が調べていた30年前にアメリカ大統領の命令で作成された報告書“ハイズマン・レポート”とは?
次第に真相が明らかになるにつれ、事態は日本政府をも巻き込み、研人を追い詰めていく。
コンゴのピグミー族集落で驚愕の事実に向き会ったイエーガーの決断は?父から受け継いだ“GIFT”を、研人は何のために使うのか?ホワイトハウスが察知した人類絶滅の危機の“真実”とはいったい・・・?
第65回日本推理作家協会賞受賞、第2回山田風太郎賞受賞、2012年版このミステリーがすごい! 第1位受賞、2011年週刊文春ミステリーベスト10第1位受賞、2012年本屋大賞第2位

まさに心震わせるサイエンス・ミステリー小説であり、息もつかせぬアドベンチャー大作である。作中で紹介されるハイズマン・レポートは人類の絶滅要因を研究テーマにしている。巨大隕石の衝突など宇宙規模の災害を始め、地球規模の環境変動、核戦争、未知のウィルスによる疫病の蔓延など人類絶滅の脅威が研究されており、最後の脅威として“人類の進化”が提示されている。現生人類と次世代人類、この2つの生物種は生態的地位(エコロジカル・ニッチ)が一致するため、現生人類が、北京原人やネアンデルタール人と同じ運命を辿る、と締めくくられている。この小説のタイトル「ジェノサイド」とは大量虐殺のことで、人類とは地球上の生物種の中で唯一同族の大量殺人を犯す種であることが、歴史的な様々な事例と残虐な描写から言及されている。研人が友人と協力しながら、GIFTを駆動し創薬開発をするシーンは、医科学専門用語が満載で、実に興味深く、自身があたかも創薬をしているがごとく、引き込まれてしまう。著者の綿密な下調べのもと記載されている膨大な医科学の知識は、理系の読者層にも納得であろう。人間の残酷さや身勝手さに嫌悪感を抱く一方で、家族愛や友情など人間が持つ素晴らしい面も描かれており、アフリカ-アメリカ-日本で同時並行して動く異なるストーリーが、散漫になることなく、驚愕のラストに向けて集約されていく、兎に角、凄い作品である。是非、是非、お勧めしたい一冊である。
余談ではあるが、著者は2001年「13階段」で江戸川乱歩賞を受賞している。死刑囚の冤罪を証明するため、仮釈放中の青年と刑務官が10年前の殺人事件の謎を追うミステリー小説であり、これもまた名作である。