【ソクラテスの書棚】原田マハ作「楽園のカンヴァス」
ヒロシ
倉敷にある大原美術館は、岡山大学の学生は無料で入れるので、よく担当の学生達をつれて一緒に見学します。エル・グレコの「受胎告知」を始め、モネ、ゴーギャン、ルノワールなどの数々の有名作品を一同にそろえた美術館と、それを選んだ児島虎次郎の先見の明に、ただただ脱帽します。
その中で、この物語を読むまで、何度訪れても、あまり気にかけなかったアンリ・ルソーの絵もパブロ・ピカソの絵と向き合うように展示されています。「楽園のカンヴァス」は、このルソーとその作品に光を当てた物語です。その作品は、残念ながら大原美術館にあるものではなく、ニューヨーク近代美術館が所蔵している「夢」なのですが、この物語では、それがもう一点作られていて、そのもう一つの「夢」の真贋を見極める過程で、同時代に生きたピカソの影がこの作品に浮かび上がってくるというものです。さて絵はルソーの書いたものなのか、それとも贋作か。
この物語を通して、誰しもが共感できること、それは絵に対する愛情です。作者の思いです。必ず、絵には物語が伴います。それを知ることによって、これまで気にも留めなかった絵に特別な関心を抱くこともあるのです。そこで、ふと思いました。私達が論文に掲載する写真も同じ思いが込められているから、あんなに美しくて、インパクトがあるんだと。そして、このように構想と時間をかけ、数々の失敗を乗り越えて撮った一枚の写真は、決して取り間違えて掲載されることはないと。