日本骨代謝学会

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Brave heart

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じっくりあたためてきたアイディアを途中であきらめずに、ゆっくりと着実に進めてください。必ず、道は開けます。

大阪保健医療大学学長・岡山大学名誉教授・JCHO大阪病院名誉院長 清野 佳紀

The Chemical Dynamics of Bone Mineral

私が骨の病気に興味を持ったのは、大阪大学医学部を1965年(昭和40年)に卒業して間もない頃に、ひとりの歩けない2歳の女の子の患者さんに出会ったときからです。その子の病名は難治性のくる病でしたが、その後の医学の進歩によって、活性型ビタミンD製剤で完全に治すことができました。若い医師の時代に印象の深い患者さんに出会うと、医師の一生にも大きな影響を与えることになります。私にとってくる病という病気は非常に強烈な印象を与えるものでした。世の中にはこのような骨の病気で悩む子どもがいることもわかりました。その後、くる病以外にもたくさんの生まれつきの骨の病気で悩んでいる患者さんと家族を知るようになり、何とかしてこのような骨の病気の子どもたちを治してあげたいと思うようになりました。

 実際、世界的にも骨の病気の子どもたちに関心をもつ小児科医はきわめて少ないのです。また、多くの病気がいままででは不治の病であったために、どうしようもないというのが現状でした。しかし、遅ればせながら医学の進歩はこのきわめてマイナーな分野にも光を投げかけてくれるようになりました。まず、ビタミンD依存症Ⅰ型などの難治性のくる病を治すことができる活性型ビタミンDが1971年に発見され、その2、3年後から薬として手に入るようになりました。軟骨無形成症などに適用される骨延長術も1986年から日本でも可能になってきました。
 私が軟骨無形成症の患者さんの会の強い要望を受けて、臨床試験により厚生労働省からこれらの子どもたちに成長ホルモン療法の適用許可を取得したのが1997年です。また、カナダのFrancis H.Glorieux先生たちが骨形成不全症の子どもにビスフォスフォネート製剤が劇的に効果があると発表したのが1998年です。日本を含めて世界中の骨形成不全症の子どもたちも、新生児期からこのビスフォスフォネート製剤を使用することにより、普通の子どもと同じように生活できるようになってきました。今後、より新しいビスフォスフォネートも適応になると思われます。
 また、ビタミンD抵抗性くる病のうち、もっとも多くみられる家族性低リン血症性くる病(XLH)は、難治性で長年小児科医はその治療に苦労してきました。近年、皆様ご承知のように、福本誠二先生とキリンのグループによるリン調節ホルモン(FGF23)の発見が、本症の根治療法につながることとなりました。すなわち、3年前から国際共同治験として本症に対して、キリンのグループにより、抗FGF23抗体による治療の臨床試験が日本を含め各国で始まりました。この治療法が本症の根治療法になることは疑いありません。

 このように私が大学を卒業した1965年頃にはまったく治すことができなかったこれらの病気が、ようやく50年近く経って、治療することができるようになりました。それ以外にも、低フォスファターゼ症の酵素療法や、軟骨無形成症においても妻木範行先生が発見したスタチンを始め、バイオマリン社が治験を始めたCNP誘導体など、新しい治療薬が発見されつつあります。長年不治の病として医療の片隅におかれていた骨の難病にも、研究者がコツコツと努力してきた成果が実り、苦しんできた子どもたちに明るい光を照らし始めました。
 若い研究者には、はやりすたりの多い研究の流行に流されることなく、自分の選んだ道をゆっくりと着実に歩んでいただきたいです。必ず、報われる日が来ると思います。