生物発光イメージングによるオステオプロテゲリン分泌の可視化とRANKLによる分泌抑制
著者: | Ninomiya H, Fukuda S, Nishida-Fukuda H, Shibata Y, Sato T, Nakamichi Y, Nakamura M, Udagawa N, Miyazawa K, Suzuki T. |
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雑誌: | Bone. 2025 Feb;191:117319. doi: 10.1016/j.bone.2024.117319. |
- 骨芽細胞
- OPG
- 生物発光イメージング
生物発光イメージング装置の前にて。前列右から、二宮秀菜 (筆頭著者), 福田信治, 福田尚代先生。後列右から、鈴木崇弘先生, 宮澤健先生, 佐藤琢麻先生。
論文サマリー
破骨細胞の分化は、骨芽細胞の細胞表面に存在する膜型リガンドRANKL (receptor activator of nuclear factor kappa-B ligand)が破骨細胞の前駆細胞に発現する受容体RANKに作用することで促進される。Osteoprotegerin(OPG)は骨芽細胞が自己分泌するRANKLのデコイ受容体であり、RANKL-RANKの相互作用を阻害することで破骨細胞の分化を抑制する因子であるが、OPGの分泌機構は未だ不明な点が多い。
我々は、発光酵素Gaussia Luciferase(GLase/GLuc)をレポーターとするビデオレート生物発光イメージング法を構築し、様々なタンパク質の分泌動態を可視化してきた。本手法で細胞外に分泌されたタンパク質を可視化する原理は以下の通りである。(1) 解析対象の分泌タンパク質をGLaseとの融合タンパク質として細胞に発現させる。(2) このGLase融合型分泌タンパク質は、小胞輸送を経て細胞表面から開口分泌された瞬間、培養液中の基質セレンテラジンと反応する。(3) この酵素反応によって生じる微弱発光を高感度カメラ顕微鏡システムによりビデオ画像として取得することで、生細胞がタンパク質を分泌する様子をリアルタイムで捉えることができる。
本研究では、OPGとGLaseの融合タンパク質(OPG-GLase)をマウス骨芽細胞様細胞株MC3T3-E1に発現させ、OPG分泌動態の発光ライブセルイメージングを行った。その結果、OPG-GLaseが細胞表面の広範囲から頻繁に分泌される様子が可視化された (図1A)。興味深いことに、OPG-GLaseをRANKL-mCherryと共発現させたところ、OPG-GLaseの分泌が著しく減少した (図1B)。またOPGとRANKLの相互作用に関わる部位を欠失する変異体、および大理石骨病を引き起こすRANKL変異体を用いて分泌イメージング (図1C)、ウェスタンブロッティング、およびルミノメーターでの発光活性測定を行った結果、RANKLによるOPGの分泌抑制には両タンパク質間の相互作用が不可欠であることが示唆された。
図1: 野生型/変異型RANKL存在下におけるOPG分泌の発光イメージング
- 左: mCherry (コントロール)を発現している細胞。中央: 同じ細胞におけるOPG-GLaseの開口分泌スポット (シアン)。右: 1フレームあたり500ミリ秒の連続ライブイメージングを行い、合計2分半の撮影中に起きたOPG分泌を重ね合わせた画像 (緑)。
- 同様の実験を野生型RANKL-mCherry存在下で行ったもの。OPG-GLaseの分泌が抑制されている。
- 同様の実験を変異型RANKL-mCherry (大理石骨病の原因となるV276フレームシフト変異) 存在下で行ったもの。OPG-GLaseの分泌は抑制されていない。
詳細は原著論文およびSupplementary Movie参照。
これまでの研究から、OPGは細胞外に分泌された後に細胞表面のRANKLと結合して破骨細胞の分化を抑制することが定説となっている。本研究は、生細胞からのOPGの分泌動態を初めて可視化すると共に、RANKLが細胞内でOPGに結合することによってOPGの分泌を抑制するという新しい分子機構を提示するものである (図2)。
図2: RANKLによるOPG分泌の抑制モデル
左: OPGはER-ゴルジ体を経て細胞外に分泌される。
中央: OPG結合タンパク質であるRANKLが共存する場合、OPGは細胞内に留められ、分泌されない。
右: OPGに結合できないRANKL変異体が共存する場合、OPGは細胞内留められず、RANKL非存在下と同様に細胞外へ分泌される。
著者コメント
大学で学んだOsteoprotegerin(OPG)とRANKLの知識をもとに、大学院では骨芽細胞株にOPGを発現させ、RANKL共発現の影響を生物発光イメージング法により可視化する研究に取り組みました。RANKLの共発現によりOPGの分泌が顕著に抑制されることを明らかにし、その成果を論文として報告できたことは、非常に貴重な経験となりました。本研究が、骨リモデリングの分子機構に対する理解を深め、骨代謝に関わる多領域への応用につながっていくことを願っています。最後に、大変熱心にご指導くださった生化学講座の鈴木崇弘教授、福田信治先生、福田尚代先生、歯科矯正学講座の宮澤健教授、佐藤琢麻先生、松本歯科大学の宇田川信之教授、中道裕子先生、中村美どり先生をはじめとする先生方に、この場を借りて心より感謝申し上げます。
二宮 秀菜 (愛知学院大学歯学部矯正学講座)
2025年6月24日