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骨芽細胞系列細胞のビタミンD受容体は、高ビタミンD症(HVD)において循環スクレロスチンレベルの亢進と骨形成の低下を仲介する

Vitamin D receptor in osteoblast lineage cells mediates increased sclerostin circulation and decreased bone formation in hypervitaminosis D.
著者: Liu Z, He Z, Shi L, Mori T, Tamamura Y, Udagawa N, Nakamichi Y.
雑誌: J Steroid Biochem Mol Biol. 2025 May;249:106711. doi: 10.1016/j.jsbmb.2025.106711.
  • 高ビタミンD症(HVD)
  • LDN-スクレロスチン
  • 骨形成低下


左)劉 子洋(筆頭著者)、右)中道 裕子(責任著者)

論文サマリー

高ビタミンD症(hypervitaminosis D、HVD)は、医原性もしくは内因性に発症する。医原性HVDの原因には、ビタミンD製剤やサプリの過剰摂取のほかに、成体異物周囲肉芽腫における異所性活性型ビタミンD(1,25D)産生がある。内因性HVDの原因として、サルコイドーシスにおける異所性1,25D産生、PTH-Vitamin D-FGF23 axisの破綻による1,25D産生亢進または分解低下、ビタミンD24水酸化酵素遺伝子変異による1,25D分解低下がある。我々は、骨芽細胞系列細胞のビタミンD受容体(VDR)が、HVDにおける骨吸収亢進と軟組織石灰化を仲介することを報告した(Endocrinology 2020, JSBMB 2023)。

本論文では、HVDにおいて骨芽細胞系列細胞のVDRが、骨形成を抑制していることを示した。HVDモデルとして高用量の1,25Dを投与すると、Control [Osterix(Osx)-Cre; VDR+/+] マウスにおいて、骨形成が抑制され、骨形成阻害タンパクであるスクレロスチンの血清レベルを有意に増加させた(図1)。一方、骨芽細胞系列細胞特異的VDR-cKO (Osx-VDR-cKO)マウスではこのよう反応は見られなかった。しかし、血清のタンパクレベルとは反対に、スクレロスチンをコードするSostの骨におけるmRNA発現は、Controlマウスにおいてのみ1,25Dによる低下傾向を認めた(図1)。一方、スクレロスチンの糖鎖末端をGalNAcβ1→4GlcNAc(同義語LacdiNAcまたはLDN)修飾することで、循環スクレロスチンのクリアランスを促進することが示唆されているβ-1,4-N-アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ3(B4GALNT3)(EBioMedicine 2023)のmRNA発現は、1,25DによってControlマウスの骨において抑制されたが、Osx-VDR-cKOマウスの骨では抑制されなかった(図1)。そこで、我々は、WFAレクチンによってLDN-スクレロスチンを検出するELISAシステムを構築した(図2)。
骨芽細胞系列細胞株で過剰発現させたB4galnt3は、LDN-スクレロスチンを増加させた。また、1,25D刺激はB4galnt3 mRNA発現を抑制し、LDN-スクレロスチンを低下させた。これにより、LDN修飾が血清スクレロスチン濃度と骨のSost mRNAレベルとの不一致を説明し得ることが示された。なお、LDN修飾は、黄体形成ホルモンや甲状腺刺激ホルモンのクリアランスを促進することが報告されている(Cell 67:1103, 1991)。以上、我々は、HVDにおいて骨芽細胞系列細胞のVDRが、LDN修飾を抑制することでスクレロスチン循環を増加させ、骨形成を抑制しているという仮説を提唱した(図3)。

著者コメント

循環スクレロスチンレベルの上昇と心血管疾患、糖尿病、慢性腎臓病との関連が報告されています (Arterioscler Thromb Vasc Biol 42:e187, 2022; J Clin Endocrinol Metab 97:234, 2012; PLoS ONE 12:e0176411, 2017ほか多数報告あり)。一方で、骨におけるスクレロスチン発現レベルの低下は、高骨密度&骨折リスク低下との因果関係、心血管イベントリスク上昇との因果関係が示されています (Nat Commun 15:9832, 2024)。これらの報告から、スクレロスチンの分解制御が病態に深く関わっていることが示唆されますが、証明されてはいません。今回構築したLDN-スクレロスチン検出系は、まだまだ感度が低くin vivoマウス血清ではかろうじて検出出来る程度でした。今後、システムの改善を行い、スクレロスチンの分解制御と病態との関連を明らかにしたいと思います。

(松本歯科大学 総合歯科医学研究所 中道 裕子)

2025年6月24日