The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch577_kawai576_uemura

1st Author

TOP > 1st Author > 小玉 城

Apolipoprotein Eは包括的に成長軟骨板休止層細胞を標識する

Apolipoprotein E is a marker of all chondrocytes in the growth plate resting zone
著者: Kodama J, Oichi T, Wilkinson KJ, Abzug JM, Kaito T, Enomoto-Iwamoto M, Iwamoto M, Otsuru S.
雑誌: Bone Res. 2025 Mar 3;13(1):31. doi: 10.1038/s41413-025-00407-2. PMID: 40025030; PMCID: PMC11873292.
  • 成長軟骨板
  • Apolipoprotein E
  • 骨格幹細胞


左から:髙見 賢司(ポスドク)、小玉 城(ポスドク)、Hongying Tian(実験助手)、Scott Gallagher(PhD student)、大鶴 聰(責任研究者)

論文サマリー

成長軟骨板は、軟骨細胞の活発な細胞分裂と内軟骨骨化プロセスにより、成長期における爆発的な骨の伸長に寄与している。しかし、このダイナミックな器官の骨端側には「休止層」と呼ばれる領域が存在し、そこには非対称細胞分裂をゆっくりと行いながら、成長軟骨細胞を持続的に供給する幹細胞が並んでいる。成長軟骨細胞の供給源であると同時に、これらの幹細胞は、Pthrpなどの因子を分泌して成長軟骨板全体の活動を制御する“司令塔”でもあり(1)、成長軟骨板において中心的な役割を担っている。

しかし、休止層にどのような幹細胞集団が存在するのか、その活性化がどのように制御されているのか、さらに下流の成長軟骨細胞へのコミットメントを決定する分子メカニズムなど、依然として未解明な問題が残されている。これまで、多くの研究グループが成長軟骨板幹細胞のマーカーを同定し、系譜追跡マウスモデルを用いてその動態を明らかにしようとしてきたが、いずれのマーカーも幹細胞およびその下流の成長軟骨板細胞の一部しか標識できていない(2–4)。これは、休止層に存在する幹細胞集団の異質性を示唆するものであり、成長軟骨板幹細胞集団の特性を明らかにするには、休止層全体を包括的に解析できる手法が求められていた。

このギャップを埋めるために、我々はマウス成長軟骨板に対して単細胞トランスクリプトーム解析を行い、発現変動遺伝子のスクリーニングを実施するとともに、RNA in situ hybridization(RNAScope)による組織学的検証を併用し、休止層細胞における包括的なマーカー遺伝子の探索を行った。 

 

4週齢のメスC57BL/6Jマウスの大腿骨遠位・脛骨近位の成長軟骨板を含む骨端部をコラゲナーゼ処理し、単離した細胞を10x genomics platformで単細胞RNAシーケンシングを行った。成長軟骨細胞(Acanhigh, Epyc+, Prg4-)の中でこれまでに報告された幹細胞マーカー(Clu+, Pthlh+)を発現する部分母集団細胞を同定し、広範(発現細胞数>90%)かつ特異的に(ほかの部分集団より2倍以上高く)発現している遺伝子をリストアップした。Apolipoprotein E(Apoe)がその中のトップヒットであることが分かった。図で示すように、休止層(Apoe+)、増殖層(C1qtnf3+)、および肥大層(Col10a1+)をRNAScopeで明瞭にラベリングする方法を確立した。さらに、ヒトサンプルにおいても、休止層でのAPOEの発現をタンパクレベルで確認できた。

最後に、Apoe遺伝子の一方の対立遺伝子をmCherry蛍光タンパク質をコーディングする遺伝子配列で置換するKnock-inマウスモデルを作成し休止層細胞を包括的に解析した。休止層細胞には緩徐に細胞分裂を行い軟骨・骨細胞への多分化能を持つ幹細胞がいることを確認した。さらに休止層には、これまでに同定された幹細胞集団(Pthlh+、Axin2+、Foxa2+)に加え、未知な幹細胞部分集団や活性化された前駆細胞(Amplifying cells; Apoe+Ccnd1+)の存在が示唆された。

参考文献

  1. Kronenberg HM. Developmental regulation of the growth plate. Nature. 2003 May;423(6937):332–6.
  2. Mizuhashi K, Ono W, Matsushita Y, Sakagami N, Takahashi A, Saunders TL, et al. Resting zone of the growth plate houses a unique class of skeletal stem cells. Nature. 2018 Nov;563(7730):254–8.
  3. Muruganandan S, Pierce R, Teguh DA, Perez RF, Bell N, Nguyen B, et al. A FoxA2+ long-term stem cell population is necessary for growth plate cartilage regeneration after injury. Nat Commun. 2022 May;13(1):2515.
  4. Oichi T, Kodama J, Wilson K, Tian H, Imamura Kawasawa Y, Usami Y, et al. Nutrient-regulated dynamics of chondroprogenitors in the postnatal murine growth plate. Bone Res. 2023 Apr 21;11(1):20.

著者コメント

骨格系組織の研究における単細胞RNAシーケンシング技術には、いくつかの課題があった。たとえば、長時間の酵素処理による遺伝子発現パターンの変化や、空間的情報の喪失などが挙げられる。とくに成長軟骨板のようなダイナミックな組織では、細胞の位置がその分化ステージや機能と強く関連しているため、データ上の細胞が実際にどこに存在するのかを確認することが重要であった。これらの問題を克服するために、我々はまず酵素処理の最適化を行い、30分間の処理を3回繰り返すことで、単離された細胞が酵素処理溶液中にとどまる時間を可能な限り短縮した。さらに、硬組織におけるRNA in situ hybridization(RNAScope)手法を確立し、標的遺伝子を発現する細胞を組織中で徹底的に検証した。これは、位置情報の確認に加え、トランスクリプトミクス研究における高い偽陽性率の排除にも有効なストラテジーであると考えている。

この研究により、さまざまな新たな疑問が生じた。たとえば、なぜ休止層には複数の幹細胞集団が存在するのか、異なるマーカーを発現しているだけで同じ機能を担っているのか、それとも異なる時期や状況でそれぞれが活性化されるのか。既知のマーカーを発現していない未知の休止層細胞集団は、いったいどのような役割を果たしているのか。さらに、休止層細胞はなぜAPOEを発現しているのか、などである。我々の研究室では、これらの疑問を解明するために、新たなツールを開発し、研究を継続している

私個人としては、この論文は4年間のポスドク生活における最初の研究論文である。APOEの休止層細胞における発現をきっかけに、休止層細胞におけるAPOEの役割をはじめ、成長軟骨板全体における脂質代謝を解明する大きな研究プロジェクトへとつながった。現象から分子へ、そして分子から新たな現象へと展開する基礎研究の戦略は非常に学びが多く、その面白さに魅了されている。

(メリーランド大学 整形外科 小玉 城)

2025年6月24日