The Japanese Society for Bone and Mineral Reserch

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Fam102aによるRunx2とRbpjlの核内移行はOsterix発現と骨形成を促進する

Fam102a translocates Runx2 and Rbpjl to facilitate Osterix expression and bone formation.
著者: Yamashita Y, Hayashi M, Liu A, Sasaki F, Tsuchiya Y, Takayanagi H, Saito M, Nakashima T.
雑誌: Nat Commun. 2025 Jan 2;16(1):9. doi: 10.1038/s41467-024-55451-z. PMID: 39747056; PMCID: PMC11695619.
  • Fam102a
  • Rbpjl
  • 骨リモデリング


左)山下祐(筆者)、右)共同著者の斎藤先生、劉先生、林先生

論文サマリー

骨恒常性は、破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成が連携する骨リモデリングにより維持されているが、両細胞の分化に共通して関与する分子の理解は依然として不十分である。本研究では、Fam102a(family with sequence similarity 102, member A)が、破骨細胞および骨芽細胞の分化をともに促進する新たな骨リモデリング因子であることを明らかにした。

 

NFATc1欠損破骨細胞およびRunx2欠損骨芽細胞における網羅的遺伝子発現解析の結果、Fam102aが両細胞において共通して発現低下する唯一の遺伝子として同定された。Fam102aの発現は骨芽細胞および破骨細胞の分化に伴い上昇し、in vitroでのノックダウンにより骨芽細胞の分化およびSp7(Osterixをコードする遺伝子)発現が顕著に抑制された。一方、Runx2の発現は影響を受けなかったことから、Fam102aはRunx2の下流でSp7を制御していることが示唆された。

さらに、Fam102a欠損マウスを解析したところ、破骨細胞と骨芽細胞の双方の分化低下が観察されたが、特に骨形成の著しい低下による骨量の減少が認められた。このことから、Fam102aが骨形成を中心とした骨代謝調節において重要な役割を果たしていることが示された。

 

分子生物学的解析により、Fam102aは転写因子Runx2と直接結合するのではなく、核輸送受容体Kpna2(インポーチンα)と相互作用することでRunx2の核内移行を促進し、結果としてSp7の発現を高めていた。また、網羅的解析によりFam102aは転写因子Rbpjlの核内移行および自己増幅も促進することを発見し、Fam102aの欠損はRbpjlの発現と核内局在をともに低下させた。実際に、新たに作製したRbpjl変異マウスでは骨形成の低下および骨量の著明な減少が認められた。一方で、破骨細胞数や骨吸収には有意な変化が見られなかったことから、Rbpjlは骨芽細胞分化に特異的に関与することが示唆された。さらに、Rbpjlは転写因子Runx2と協調してSp7プロモーターの活性を高めるとともに、自らのプロモーター領域にも結合し、Runx2の影響下で自己増幅する能力を有することが明らかとなった。

 

これらの知見から、Fam102aがKpna2を介してRunx2およびRbpjlの核内移行を制御し、両者が協調してSp7発現を促進することで骨芽細胞分化を誘導する新たな分子メカニズムが明らかとなった。

著者コメント

本研究で明らかとなったFam102a–Rbpjl軸は、骨形成に特異的に機能する新たな制御機構として注目しており、特に低回転型骨粗鬆症をはじめとする加齢性骨疾患に対する治療標的としての可能性が示唆されました。今後もこの経路の病態生理学的意義および治療応用に向けた研究を継続していきたいと考えています。

本研究にあたり、基礎実験の立ち上げから辛抱強くご指導くださいました中島友紀教授、林幹人准教授、佐々木文之特任研究員(当時)に心より感謝申し上げます。また、このような研究の機会を与えてくださった東京慈恵会医科大学整形外科学講座の斎藤充教授ならびに講座の皆様のご支援に、ここに深く御礼申し上げます。

(東京科学大学大学院医歯学総合研究科分子情報伝達学分野、東京慈恵会医科大学整形外科学講座・山下祐)

2025年6月24日