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関節リウマチにおける高解像度末梢骨用定量的CT(HR-pQCT)を用いた中手指節関節の微細構造解析: 健常人との比較

Microarchitectural analysis of the metacarpophalangeal joint using HR-pQCT in patients with rheumatoid arthritis: A comparison with healthy controls.
著者: Watanabe K, Chiba K, Shiraishi K, Iida T, Iwamoto N, Yonekura A, Kawakami A, Osaki M.
雑誌: Bone. 2024 Dec;189:117250. doi: 10.1016/j.bone.2024.117250.
  • RA
  • MCP関節微細構造
  • HR-pQCT


左)千葉 恒 先生、右)渡邉 航之助 (筆者)

論文サマリー

関節リウマチ (Rheumatoid arthritis: RA) は、慢性持続性滑膜炎により骨萎縮、骨びらん、関節裂隙狭小化といった関節構造の劣化が生じ、最終的には関節破壊が進行し機能不全に陥る疾患である。高解像度末梢骨用定量的CT(High-resolution peripheral quantitative computed tomography: HR-pQCT)は、ヒト生体に使用できるCTとしては最も高い解像度を有する四肢骨用CTで、骨微細構造を低被曝で非侵襲的に、そして、三次元的に正確な計測をすることが可能である。HR-pQCTは近年、RA患者の中手指節 (metacarpophalangeal: MCP) 関節の関節裂隙、骨微細構造、骨びらんの三次元的定量化に用いられ病態解析や薬効評価に応用されている。本研究の目的は、HR-pQCTを用いてRA患者の手指MCP関節の関節微細構造を定量化する種々の形態学的パラメータを解析し、健常人と比較することで、RAの病態解析における各パラメータの有用性を検証することである。

対象は、RA患者50名(平均年齢66歳、全例女性)、健常人50名 (平均年齢64歳、全例女性)の合計100名とした。HR-pQCT(XtremeCT II, Scanco Medical)を用い、片側の第2、3MCP関節をボクセルサイズ 61μmで撮影した。関節裂隙、骨微細構造、骨びらんに関する種々の形態学的パラメータを解析し、RA患者と健常人で比較した。


図1 HR-pQCT画像で計測された手指MCP関節の関節裂隙(Joint space)、骨微細構造(Bone microarchitecture)、骨びらん(Erosion)のパラメーター
A:撮影範囲、B:HR-pQCTの2D冠状断画像、C:HR-pQCTの3D冠状断画像

関節裂隙は全てのパラメータで、RA患者と健常人に差は認めなかった。一方、骨微細構造は、RA患者は健常人と比較して、海綿骨密度が低く、骨梁体積密度が低く、骨梁幅が細く、骨梁数が少なく、骨梁間距離が広く、骨梁の形態がrod-like構造で、骨梁の連結性が低かった(全て p<0.01)。また、骨びらんは、RA患者は健常人と比較して関節あたりの数が多く(p<0.01)、体積が大きく(p=0.01)、幅が長く(p=0.02)、長さが長かった(p=0.01)。骨びらんは健常人にも発生しており(100関節中18関節に発生している。)、そのほとんどが体積5 mm3未満で(95%)、橈側に認められた(85%)。体積が5 mm3未満の骨びらんをRA患者と健常人で比較すると、その形態や発生部位に差はなかった。


図2 関節リウマチ(RA)患者と健常人(HC)における骨びらん体積(Er.V)と骨びらん数(Er.N)のヒストグラム
RA患者は健常人と比較して体積が5 mm3以上の骨びらんを多く有していた。一方、体積が5mm3未満の骨びらんは、RA患者と健常人で同程度に発生していた。

MCP関節における骨微細構造の劣化、および5 mm3以上の骨びらんの形成は、RAの鋭敏な画像マーカーになると考えた。一方、健常人でも5 mm3未満の骨びらんが発生していることから、RA患者に存在する5mm3未満の骨びらんはRAによる初期の病的な骨びらんだけでなく、健常人にも発生する生理的な骨びらんも含んでいる可能性があると考えた。

著者コメント

HR-pQCTは、主に骨粗鬆症の病態解析や薬効評価に応用されていますが、近年RA患者のMCP関節の微細構造解析にも応用されています。しかし、RAの関節構造の病的変化を構成する、関節裂隙、骨微細構造、骨びらんのすべてをHR-pQCTを用いて3次元的に評価し、健常人と比較した先行研究はありませんでした。そこで、HR-pQCTの種々の計測項目の中で、どの形態学的パラメータが最も有用なのかを解明できないかと考え、この研究に取り組みました。

HR-pQCT撮影の際には、患者さんが疼痛のため少し動いてしまいアーチファクトが出現することがあるため、何度も撮影をし直したり、場合によっては後日に再撮影となることもありました。患者さんには御迷惑をかけてしまい、HR-pQCTの研究の難しさを感じました。最終的には、この研究によりRA患者の関節微細構造の特徴を、明らかにすることができました。この研究の成果が、今後のRAの病態解析や薬効評価の一助になれば幸いです。

本研究に多大なご指導ご鞭撻を頂きました千葉 恒先生、尾﨑 誠先生をはじめとする諸先生方、ラボの皆様にはこの場をお借りしまして心より御礼申し上げます。

(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 整形外科学 渡邉 航之助)

2025年1月31日