酸化的リン酸化を介した破骨細胞分化に対するSIK3経路阻害の影響
著者: | Kamei K, Yahara Y, Kim JD, Tsuji M, Iwasaki M, Takemori H, Seki S, Makino H, Futakawa H, Hirokawa T, Nguyen TCT, Nakagawa T, Kawaguchi Y. |
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雑誌: | J Bone Miner Res. 2024 Sep 2;39(9):1340-1355. doi: 10.1093/jbmr/zjae105. |
- 破骨細胞
- SIK3
- 酸化的リン酸化
左上:箭原先生 右上:川口教授 中央下:筆頭著者
論文サマリー
本研究では、骨代謝性疾患である骨粗鬆症の新たな治療法を模索するため、破骨細胞におけるSalt inducible kinases(SIKs)の役割に着目した。骨の恒常性は骨形成と吸収のバランスによって維持されるが、SIKsが骨の代謝に与える影響について、特に破骨細胞における役割は不明であった。本研究の目的は、SIKsの中で破骨前駆細胞おいて最も発現量が高いSIK3に注目しSIK3の欠損やその阻害剤であるプテロシンBが破骨細胞の分化と成熟に及ぼす影響を明らかにすることで、SIKsをターゲットとした新たな骨粗鬆症治療戦略の構築に挑戦することである。
研究方法と結果の概要
- SIK3欠損マウスの解析
RankCreマウスとSik3flox マウスを交配し破骨細胞特異的にSIK3を欠損するマウス(cKOマウス)を作製した。解析の結果、cKOマウスでは通常のマウスに比べて骨量が増加し(図1)、骨吸収機能が低下していた。また、遺伝子解析でも破骨細胞に関連する遺伝子マーカーの発現が有意に低下し、SIK3の欠損が破骨細胞の分化と骨吸収能を抑制した。
図1:マウスの大腿骨(左)µCT像 (右)組織像 HE染色 - SIK3阻害剤プテロシンBの解析
次に、SIK3阻害剤として同定されたプテロシンBを用いて、in vitroでの破骨細胞分化への影響を検討した。プテロシンB処理によって破骨細胞の分化が抑制され、骨吸収孔の形成も減少することを確認した。さらに、プテロシンB処理は破骨細胞関連遺伝子発現を抑制し、cKOマウスと同様に破骨細胞の成熟と機能を抑制した。 - SIK3欠損とプテロシンBが標的とする遺伝子の解析
RNAシークエンスを用いた解析により、SIK3欠損とプテロシンB処理で共通して発現が低下する遺伝子群を特定した。これらの遺伝子は、破骨細胞の分化や骨吸収に関連するものであり、SIK3が破骨細胞の形成に必要なエネルギー代謝の維持に関与していることが示唆された。 - エネルギー代謝と破骨細胞分化抑制
酸化的リン酸化やTCAサイクルに関連する遺伝子の発現がSIK3欠損やプテロシンB処理によって抑制され、破骨細胞のエネルギー消費が低下することを確認した。プテロシンB処理によりミトコンドリアの膜電位が低下(図2)することを確認した。
細胞外フラックスアナライザーによる細胞代謝解析では酸化的リン酸化およびATP産生を抑制する(図3)ことを確認した。以上よりプテロシンB処理によりミトコンドリアにおける呼吸を抑制しATP産生を抑制することが明らかとなった。
図2:ミトコンドリア膜電位解析 JC-1染色
図3:ミトストレス試験
以上の結果から破骨細胞特異的な SIK3 欠損マウスでは、大腿骨の骨量が増加することが明らかになった。SIK3欠損とプテロシンB は、ともにミトコンドリア内膜上にある呼吸鎖複合体に関連する遺伝子群の発現を抑制し、細胞のエネルギー源であるATP 産生を抑制することで破骨細胞分化を阻害する可能性が示された。
著者コメント
本研究により、SIK3欠損およびその阻害剤プテロシンBが破骨細胞の分化と機能を抑制し、骨量増加をもたらす可能性が示されました。責任著者である箭原先生はプテロシンBが軟骨細胞の肥大化および変形性関節症の進行を抑制することを過去に報告しており、変形性関節症や骨粗鬆症という整形外科のメインテーマといえる疾患に対しての治療薬として研究が発展していくことを願います。熱心にご指導頂いた富山大学整形外科教室川口善治教授、大阪大学大学院医学系研究科・生命機能研究科 准教授である箭原先生、研究に関わってくださった全ての方に感謝申し上げます。今後も整形外科疾患の病態解明や治療発展に少しでも貢献できるように、リサーチマインドを持って、日々精進したいと思います。
(富山赤十字病院整形外科 亀井 克彦)
2024年12月6日